物部町の別府に住んでいたとき「このあたりはなんちゃあないし、えいところもひとつもない。」、「こんなところによう住むねぇ」とよく言われたことでした。
たしかに、町の中心地へは車で片道30分、コンビニは45分かかり、奥深い山々に囲まれ、人家もまばらで、人にも出会うことも少なく、不便なことは挙げたらきりがないくらいです。
不便=貧しい?
地域の方からお話を聞いていたときに、こんなことをおっしゃっていました。
昔のことを言ってもいかんけんど、小さい頃は電気、ガス、水が今みたいに自由に使えんかったので苦労した。
昔は集落、近所間でも協力して助け合うことが普通で、みんな仲良くささいなことで喜んで、比較するものがないので満足して暮らしていた。豊かではないけど、心は豊かだった。
便利になれば頭が上がり、不便であれば頭が下がる。(市宇地区・Yさん)
小さい頃はこのあたりは豊かだった。草一本、ちり一つ落ちてないような、庭園みたいで本当にきれいで美しい村だった。貧しいが豊かに生きる文化があったと思う。(久保地区・Kさん)
不便だからといって、決して貧相な暮らしを送っていたわけではなく、むしろ心は豊かであったんですね。
「なんちゃあない」の裏に
こういったことが、物部に住んでいる人たちの、お互いを思いやり、自然や信仰のこころを大切にして、おごらず、慎ましい生活をしているという生き方や文化、歴史の中に表れていると思います。
便利な都市生活もいいけれど、便利さから離れているからこそ、かえって、当たり前のことがありがたく、ささやかなことに幸せを感じる。そんな姿がとても尊敬でき、私は多くのことを学ばせてもらいました。
「なんちゃあない」の裏には、地域独自の多彩で奥深い魅力があふれています。
少しでも多くの方が物部、あるいは他の地域でも、たくさんの「なんちゃあなくない」を見つけてもらえたらうれしいです。
この記事を書いた人
【プロフィール】矢野 恵 高知市出身。2012年10月より3年半、物部町の地域おこし協力隊として活動後、現在土佐山田町在住。 物部の人、自然、文化、いざなぎ流をこよなく愛する。物部や香美市の魅力を発信し、地域文化の面白さや奥深さを伝えていこうと鋭意活動中。 |