四国八十八ヶ所の寺には、本堂の他に弘法大師空海を祀る大師堂が必ずありますが、寺以外にも遍路道沿いにお大師様を祀る小規模の堂が数多くあります。
また、昔から歩き遍路が立ち寄って足を伸ばし、一休みできる簡単な休憩所で「ヘンロ小屋」と言われるものもあり、ここはその両方を兼ねる珍しい建物です。
場所は香南市野市町にある四国霊場第28番札所・大日寺から、南国市国分の第29番札所・国分寺までのちょうど中間地点にあたる香美市土佐山田町松本地区。
お堂は宝永2年(1705)に建立されたと伝えられています。
四国霊場巡拝が一般庶民に広まるのが江戸時代初期の1700年前後。
その頃からここで巡礼者を見守っていましたが安政3年(1856)に改修された後は手を入れていなかったらしく、一時は屋根は傾き、今にも崩れそうになっていました。
そんなある日、地元の人たちが立ち上がります。
地域住民で話し合い、依光栄さんを中心に約10人で改修実行委員会を立ち上げ、募金活動をスタート。香美市や近隣の賛同者820人以上から460万円もの浄財が集まり、平成19年(2007)12月に完成。
設計は遍路道に遍路小屋を建築するプロジェクトに取り組む、建築家で、近畿大学元教授の歌一洋氏が担当。
土台を引き継いだほかは全面改修し、女性の意見で大師堂の集会所とヘンロ小屋を兼ねた形で復興しました。
この活動は行政も動かし、南国市は小屋前の市有地を開放。ここに地元住民と塩の道香美市保存会のメンバーらが間伐材で花壇を作り、花も楽しめるようになりました。
周辺にはイチョウなどの大きな樹木があり、春には樹齢百数十年、県下で7番目の古木である山桜が美しい花を咲かせます。
もちろん、お堂内には弘法大師空海と安政時代の彫刻、外には往年の巡礼者の石碑や苔むした石塔、江戸時代にあった巡礼宿名残の井戸などがあり、歴史の重みを感じます。
「皆のおかげでできたお堂だから、人が集える場所にしたい」。
そんな思いから、お堂をお遍路さんや地域内外の交流を深める拠点にしようと、毎月21日の午前中は誰でも気軽に世間話をしたり、お茶を飲める“お接待”も行っています。
最近は外国からのお遍路さんも増えてきました。
世知辛い世の中。時にはお大師様のお近くで、一服されてみてはいかがでしょうか。
NPOいなかみ