NPO法人FUSEとNPO法人いなかみの連携企画「個人事業」をテーマにした連載記事、第8回をお届けいたします。

今回は、ご家族や単身者、移住の下見を兼ねた方など、いろいろな方が訪れて里山での遊びや農業の収穫体験などを楽しむことができる香美市の農家民宿「遊良里やまさき」の山崎恭子さんにお話を伺いました。

民宿やまさき7 民宿やまさき1

農家民宿の喜びと悩み

農家民宿は梼原町、仁淀川町など、高知県西部が特に多いんです。逆にまんなか(中央)から東部でやっているところは少ないですね。私たちの農家民宿は、毎日忙しく働いている都会の方に、田舎の親戚の家に何泊かしに帰るみたいな気持ちを味わってもらいたいなという想いで平成17年に始めました。

開業にあたっては九州などの農家民宿の現場を見聞して回りました。ここはもともと主人の実家です。退職するまでは別の場所に住んでいましたが、義母が独居で高齢になったのでここで一緒に暮らしていたのです。

料理が好きなので、採れたもので佃煮等の常備菜や栗の渋皮煮・干し柿などを作ったりしています。お客さんが「美味しい!」と喜んでくださると本当に嬉しいですよ。ジャムもいろんな果実で作ってストックしています。野菜やお米は主人が一生懸命作っています。米は刈り入れたら天日干しをするんですよ。

岩改の風景1
周辺の景色

農業体験を希望するお客様も多いのですが、稲刈り等のイベントは遠方からのご予約に合わせるのは難しく、お天気次第ということにもなります。また、アンパンマンミュージアムに来られる小さいお子さん連れの方は「子どもにいろいろ体験させたい!」とおっしゃられますが、柚子や栗の収穫などはトゲを甘く見ているとケガをするので、安全面を考えるとやはり躊躇してしまいますね。

高齢化でこのあたりの畑も、お茶や柚子など収穫ができない人が増えて来ました。「今年はもうよう採らんから代わりに採って」という高齢者が増えてきたんです。若い人が作業してくれたら良いのですが、若い人はそれぞれの仕事で忙しいですから。

柚子なんかも、うちの親戚が収穫できないから採ってと言うので、半分は採らしてもらって、搾って、柚子ジュースを作ったり。皮も利用してジャムや佃煮にしたりしています。お茶もそうです。植えた方は高齢で、畑まで出てこれない状態なので、うちで草刈りして管理しています。

「遊びは龍河洞の冒険コース、アンパンマンミュージアム、のいち動物公園が人気ですね。ホタルの季節にはこの辺は結構たくさん飛びますよ。散歩コースをいくつか教えて、自由に散策してもらいます」(恭子さん)

管理栄養士さんでもあり、長年に渡って食育に関する仕事をしてきた恭子さん。結婚してから香美市に来て、15年間香北町の役場に勤めていらしたそうです。

民宿やまさき4

よく手入れされた花々の色と里山の静かな風景。ここは山菜なども豊富で、高知でしか食べていない食材もいっぱいあるんだそうですよ。

民宿やまさき5

愛らしい手作りの郵便受け。こういうもの一つ一つに、やさしい心遣いがあり、来る人を和ませます。

過疎だからこそ強く

この地域も過疎化と言われて、一時はこれから先ここでやっていくのはちょっと難しいかなと思ったこともありました。しかし、案外過疎地って大丈夫なんじゃないかと最近考えを改めたんです。

私たちはこれから10年、20年とここに住んでいきますが、クルマに乗るのが難しくなったら歩いて行ける近所の友だちをいっぱい作って、楽しくみんなで助け合ってやっていけたら大抵いけそうな気がしているんです。

南海地震のことも心配ではあるけど、ここほどの田舎はライフラインは絶対大丈夫だと思います。お米は1年分あり、水もある。火を燃やそうと思えばマキはいくらでもある。隣近所で助け合えば何とかなります。かえって都会よりこっちのほうが強いですよ。畑に行けば何かの食料はあリますから。

岩改の風景2
周辺の景色

グルメを追いかける若い人の中には、鍋とお水とお米があっても炊き方がわからない人もいます。でも私達の年代なら火を起こし、お鍋で米を炊いて、食べられる山菜を見つけてくることもできます。

ただ怪我をしたらアウトですよね(笑)。だけど怪我をせずにいられたら、こういった田舎は自給自足で生き延びてはいけると思うんですよ。それが強みだと思うんです。

交流を深めて地域を自分たちで活性化させようと、4年前に公会堂で地元の人と交流を兼ねて、第二月曜日に「棚田のお昼」を始めました。200円でみんなで昼ごはんを食べるんです。こうして地域で交流して地元の絆を深めていくことが大事じゃないかなと思っているんです。

若い人たちへのアドバイス

アドバイスというほどでもないですが、グリーンツーリズムをやろうという考えをお持ちの方がうちに来られることも多いんです。地元にいる人は、自分たちの住んでいる環境の良さに気がついていない人が結構います。ところが、それは都会から来た人が見たら宝物に見えるわけですよね。

反対に地元の人は外から来た人に言われて初めて「ああ、そうなのか」と気づく。そういう気づきを大事にしてほしいです。ただ自然といっても、里山は人間がきちんと保全していかないと荒れてだめになって行く。そういうところまで考えて伝えてほしいなあと思います。蛍もウスバカズラでうっそうとしている川面ではいつの間にかいなくなります。

それから、その場所に移住した方、移住したいなという方は、道役には参加するべきだと思います。ちょっとでも出てくれたらみんな喜んでくれます。道役というのは、地域の生活道の草刈りや道路整備をすることです。お互いに使う道ですもの。そういうことが自然になればとてもいい関係ができていくし、信頼感もうまれてくると感じています。

将来の夢

私はここから近い高知工科大学の学生と地域連携の試みができたら面白いなぁと考えることがあります。簡単な台所があって、ちょっと寝泊りできるようなコテージを自分たちで作って、私が食べ物を差し入れしたりして。とても楽しそうです。

将来の夢というほどのことではありませんが、昔から代々受け継いできた知恵の中にはITの時代になっても役立つことがいっぱいあります。先達からの伝承料理もその一つです。今は何でも冷凍ですが、電気に頼らない保存食品や季節ごとの手作りの品々など、私の知っていることは何でも教えます。

自分でやってみて初めて科学的に納得できることがいっぱいあります。次の世代に伝え残していけたらいいなと思っています。

岩改の風景3
周辺の景色

「退職して自由な時間がたくさんあると、ちょっとだらけてしまうところがあると思うんですが、私たちはこの農家民宿をやっているおかげで、ちょいちょいお客さんが来ることが刺激になっています」という恭子さん。地域の絆を深めようとさまざまな活動をしています。

行政に頼るだけでなく、自分たちで協力体制を作っていこうと続けている「棚田のお昼」。そして、「過疎地は案外大丈夫です」と力強く言われた恭子さんの里山への想いに心動かされた取材でした。

民宿 「遊良里やまさき」
高知県香美市香北町岩改1147
山崎実行・恭子

【マップ】

【外部リンク】
民宿 「遊良里やまさき」
http://sky.geocities.jp/yurariyamasaki/

【関連リンク】
移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html

提供:NPO法人FUSE
企画運営:NPO法人いなかみ

この記事を書いた人

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【プロフィール】

渡辺瑠海 わたなべるみ
ライター、編集者、エッセイスト

放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。

One thought on “農家民宿を営んで気付いた過疎地の安心感(遊良里やまさき)

  1. 2014年3月にこちらにお世話になったことがあります。
    当時、不登校でズタボロだった中学生の娘が香美の自然に触れ
    それをきっかけに元気を取り戻しました。
    田舎のもつ力は今の時代こそ輝く価値があると実感します。
    そこに柔らかい感性と発想力、行動力があるやまさきさんの魅力がプラスされて、ますますステキになっていってる気がします。

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