道願さんは、今からちょうど一年前の2021年4月のこと、『物部森林組合』へ就職するため三重県津市から香美市物部町へ移住されました。お勤めとは別に、『道願cycle』という自転車の出張修理・販売業も営まれています。

道願 幸治郎(どうがん こうじろう)さん 1985年生まれ 高知市出身 (写真提供:道願さん)
道願 幸治郎(どうがん こうじろう)さん
1985年生まれ 高知市出身
(写真提供:道願さん)

“林業&輪業” の実践について、物部町を訪ねお聞かせいただきました。

道願 幸治郎(どうがん こうじろう)さん 1985年生まれの高知市出身 ― 物部町大栃にて 自転車メンテナンス準備の様子(2022年4月)―
物部町大栃にて 自転車メンテナンス準備の様子(2022年4月)

 

自転車で広がる世界と人生

道願さんは20歳のときに、高知市から大阪に出て暮らし始める。

「大阪での生活の足として、マウンテンバイクを買って乗り始めました。最初はファッションの一部としての感覚も強かったです。車ほどのスピードは出ないけれど、行動範囲が格段に広がるし、大阪の下町などをぶらぶら散歩し街の空気を楽しんだりしていました。

ある日、当時の職場仲間と、大阪から三重県伊勢志摩まで自転車で遊びに行くことになりました。若かったということもあり、160㎞、峠を3つくらい超え、本当に行けてしまった。それが大きなきっかけとなり、自転車ってすごいな、面白いなと思うようになりました。当時は、自分探しの旅の途中でもあったのですが、高知に帰って自転車屋をしたいという目標が芽生えました。」

 

道願さんは地域を限定せず自転車屋としての修行先を探す。高知県と地理的条件も近く、ほどよい田舎ということもあり、三重県津市で就職。そこは、スポーツ自転車だけでなく、子どもからお年寄り向けの商品まで、幅広い車種の取り扱いをする老舗自転車店だった。

 

「はじめ、自分は簡単なスポーツバイクに乗っていましたが、お店で本格的な競技バイクにも乗るお客さんと出会う中で、お客さんと会話もできないし、売ることもできないなと感じました。それから、本格的にトレーニングを始め、様々なレース・イベントに参加したり1日で300㎞を超えるロングライドまでするようにもなりました。」

 

また、マウンテンバイクで実際に山を走っているお店の常連さんから山行きを誘われていたけれど、大阪時代に乗っていた経験もあり、山道をガタガタ行くくらいの事だろうと思い、関心は向かなかったという。それでも、あまりにも何度も何度も誘ってくれるので一回ものの試しにと思い行ってみたところ…

「マウンテンバイクで山の中を駆け回ることは、想像をはるか上を行く楽しさでした。
津市は街でもあり、お店の近くには山とは呼べないような小高い里山がある程度。ところが、自転車でその里山に入るとそこは十分に山の中。自転車でボコボコ道を走りながら、まさに地球の上を走っている感じがして。街から少ししか離れていない場所で、こんなに自然を体感できるのかという感動がありました。シンプルに言い表すと  “ 登山の冒険感と、下りはスキーのような滑走感 ”  。正直、こんなに楽しいのなら、無理やり引っ張ってでももう少し早く連れてきて欲しかった、と思うほどのあまりの楽しさでマウンテンバイクに目覚めました。」

 

長野県御嶽山の麓で開催されている、日本で一番過酷とも言われるマウンテンバイクの100kmレースにも何度かチャレンジ。仕事上では、自転車安全整備士や自転車技士、スポーツバイクメカニック(高知県内では唯一)など資格も取得。店長を任されるまでになった。

自転車店に就職するときに10年と決めた修行期間は、あっという間だったそう。

 

道願さんは、自転車店を開業するにしても在庫を並べて営業する既存の「自転車屋さん」というやり方は、大型量販店の存在やインターネットでの販売の増加という市場が飽和状態の時代にあっては、経営的にも難しいと考えた。また、自転車店の方向性として、ご自身が経験してきたことを振り返り「自転車の面白さをまだ知らない人に向けて、自転車の魅力、特に山を走る面白さを伝えたい」と思うようになった。

 

一方で、マウンテンバイクを乗る上での問題点も痛感していた。

「山は誰かしら所有者がいて、普通の道路とは違い、自転車が走っていい明らかな道はほとんどありません。ライダー同士にもちょっとした縄張り意識のようなものがあり、それぞれの地域に昔からいるライダー(ローカルと呼ばれる)と仲良くなり教えてもらう形で、走る場所を知るという感じでした。もっとオープンに走っていい場所を構えないと、マウンテンバイクの普及はできないし、自らコースを用意したい。そのために、山をもっと知りたいと思いました。」

 

山肌を走る
2021年12月 香南市山北地区で行われた『山大収穫祭』(道願さんの同級生が開催する地域おこしイベント)にて
みかん畑を走るデモンストレーションの様子
(写真提供:道願さん)

 

山の仕事、林業との出会い

三重県で出会ったマウンテンバイク仲間のうち、山主の許可を得てコースを作り、ガイドツアーを開こうとしている人達がいた。道願さんもコース作りの手伝いに行く。メンバーの中心人物は『みえ森林・林業アカデミー』関係者の方で、これが林業関係者との初めての出会いとなった。

林業を身近に感じるようになり、「林業は仕事でありながら、山のことも学べる、いっそ山の世界に飛び込んでみよう」と、高知で自転車店の開業を思い描きつつも、林業に進むことを決意。

 

「先輩から  “ 林業はとにかく危険 ”  と言われていたので、林業を一から勉強できるところに行きたい、何より安全に林業を始めたいと思いました。一昨年前の夏、香美市にある高知県『林業労働力確保支援センター』へ相談に行きました。働きながら研修を受けられる制度があることを教えていただいたり、香美市にある林業大学校への進学という選択肢なども提案していただきましたが、実際お給料をもらいながら勉強できればと思い、就職することに決めました。」

「林業には『緑の雇用制度』という、働きながら月数回、座学をしたり技術的なところを学んだり、また免許の取得ができるという仕組みがあります。物部森林組合には、必ずその制度を利用させてくださいとお願いして、入ることになりました。」

 

先述の通り、昨年春に『物部森林組合』に入り、山での仕事が始まった。

 

森林組合の仕事からご自宅に戻られたところ
森林組合の仕事からご自宅に戻られたところ

 

さらに2021年7月には、念願の自転車店『道願cycle』を開業。香美市・香南市・南国市エリアを対象に出張形態で営業する。林業&輪業の実現方法として、営業日時を平日・土曜日は森林組合就業後の17:00〜21:00、日曜日は10:00〜18:00としている(ただし、水曜は定休日)。

 

“林業&輪業”の展開

「林業にたずさわるようになり、山は細かく所有者が分かれていたり、山主さんにとっては代々受け継いできた大切な財産であるという事を知り、簡単に山をお借りしたりできなことは解っていますが、山の事を学び、迷惑をかけない範囲で山に入らせてもらい、山主さんにメリットを提供できる形を提案できればと思っています。

仕事上、山主さんと話す機会もありお話を聞くと、年がいって山の手入れに行けなくなったり、人が入らなくなったせいで獣害被害に悩まされていたりという話もありますので、例えば昔の歩道や水源地への道・作業道の整備維持管理をするとか、まだまだ勉強中ですが山の手入れをお礼としてできればと。

また、林業で山の木材搬出・管理用に張り巡らされ、今は使われていない林道や作業道も、それだけにしか使われないのはもったいない、しかしそれも山仕事の世界の大事な仕事場。決して迷惑にならない範囲でなら、有効活用できるのではないかと。

山林や遊び場に加え、地域も共存していくような、一つの新しい観光資源にもなるような山の新しい形を提案していきたいです。

自分一人ではできることも範囲も限られるけれど、自転車で遊ぶ場所がほしいという人とつながり、一緒に山へ入り、地域を盛り上げていきたいと考えています。さらに、山を身近に感じてもらい、自分もそうであった様にそこから林業に関心を持つ人が出て少しでも人手不足の緩和になればいいな、という願いも持っています。」

 

山と空と自転車
2021年6月 香美市物部地区
(写真提供:道願さん)

 

ご自身の経験を重ねながら、人と自転車と山と林業と、一歩一歩、世界を広げられてきた道願さん。協力者や知恵を貸していただける方々を求められています。

「林業と輪業で高知の森をおもしろくする」

関心を持たれた方は、ぜひ、『道願cycle』をお訪ねください!

 

 


 

道願cycle

〒781-4401 高知県香美市物部町大栃1502−15

電話:0887−58−5283

営業時間:月・火・木・金・土曜日 17:00〜21:00/日曜日 10:00〜18:00

定休日:水曜日

HP : https://dogan-cycle.jimdosite.com


 

 

(記事作成:NPO法人いなかみ)

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