香美市に関わる魅力的な人を紹介する連載記事として「かみめぐり~香美を廻る体験博~」の各プログラムを主催する10人にインタビューを行いました。
第9回は、『歴史ある山里で柚子酢香る田舎寿司にチャレンジ!』を企画されました、神池なかよし会の岡本さんにお話を伺いました。(新型コロナ感染拡大により中止となりました)
岡本さんはご主人様の定年を機に神池に戻ってきて以来、神池なかよし会のメンバーとして地域の活性に貢献をしてされています。
神池なかよし会
今回お伺いしたのは香美市物部町にある神池地区。現在、人口約30人ほどの小さな村ですが、男池、女池という龍神伝説にまつわる池や、火渡り神事などの伝統が伝わる歴史深い地域です。
空気の澄んだ自然豊かな山道をどんどん登っていくと、出迎えてくれたのは人ではなく、かかし!
このかかし達は、神池なかよし会のメンバーで作ったもので、人通りの少ない地域に少しでも賑わいをという想いが込められたものです。
そして進んでいくと女池のほとりに大日寺が見えてきました。せっかくなので、大日寺にお邪魔してきました。
ここは、野市にある四国霊場28番礼所、大日寺の奥の院と言われているそうです。大日寺には、樹齢800年となる大杉があります。800年もの間、世の流れを見てきた分、貫禄がすごかったです。
神池では、『大日様』、『高板山』と呼ばれる大祭があります。
『大日様』は4月21日に、『高板山』は、4月9日と10月9日に春と秋の大祭が行われ、名物となる「火渡り」も行われています。老若男女を問わず、たくさんの人々が参拝に来られているそうです。
神池なかよし会での取り組みの一つとして、このお祭りの際に、物部に昔から伝わる「けんかもち」や、その他自分たちで作った食べ物などを用意して、参拝しに来てくれた方のおもてなしをしているそうです。
今回お話を聞かせていただいたのは、神池なかよし会メンバーの岡本さん。
「このような活動が目にとまり、市やその他のイベントへの声をかけてもらう機会が増えました。高齢になった地域ですが、いろんな方達にお手伝いをしてもらいながら活動をしています。地域外の方々のご協力があってのことで、「おかげさま」を日々感じています。この気持ちを忘れずに今後も頑張っていきたいです」と岡本さんは話してくれました。
神池なかよし会は、もともと神池自治会という名称でしたが、そんな堅苦しい組織ではなく、みんなで仲良く神池を盛り上げていこう、ということを理由に神池なかよし会という名前にしたそうです。
また、神池なかよし会では、高知工科大学の学生さんとは地域の行事や農作業体験を通じて10年程交流しているそうで、
「学生さんには、毎年神池に来て地域に関する事のお手伝いをしてもらっています。そこで神池の事を伝えるのと同時に大学生の感覚をこちらも取り入れながら、今後の活動に活かせるよう、お互い学びのある良好な関係性を築けています」と岡本さん。
地域を守りたい、そんな共通の想いが形に
前文にもありましたが、神池なかよし会は地域の自治会の集まりにより活動が発展していった団体です。
「本来の自治会以上に関係性が深く、小さな村だからこそ皆と手を組んで、神池という場所を持続していきたい!という想いは特別強く持っていると思います。」と岡本さん。
神池というの地域の特徴や、取り組みをお伺いしました。
高知では『おきゃく』が有名ですが、人口が少ない神池地区では、何かあると気の合う人で集まって、お茶を飲んだりお昼ご飯を食べたりと、『おきゃく』文化がより強いそうです。
近所との『おきゃく』文化が薄れている今、神池の結束力は昔と変わらず続いていると話してくれました。
―ある日の『お月見』の最中にこんな話になりました。
お月見の日に皆で集まって飲んでいた時に、ある村の人がかかしのような格好をして現れました。それを見てみんなは大笑いをして楽しんだそうです。山を背景にその人の背中を見た時になんと哀愁のある面白い景色だろうと、これは形に残していかなければならない!とその場で話をした事がきっかけで、毎年村でかかしを作ることを始めたそうです。
神池のメンバーで作ったかかしは、後に香美市では有名な『刃物祭り&山田のかかしコンテスト』において最高賞に輝いたそうです。(高知新聞plus記事 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/317648)
「この村は人里離れた山の上。私たちの村に興味を持つ人が1人でも増えるように、いろんな事に挑戦していこう。地域の過疎化は深刻であるが、このまま何もしない訳にはいかない!」という気持ちが神池の人たちにはありました。
故郷を無くさないためにも、子どもが帰ってきた時の居場所を残すためにも、村に住むみんなが一致団結し、ここでしかできない神池オリジナルを構築し、広く知ってもらう活動を始めました。今回の“かみめぐり”への参加もその一環です。
また、岡本さんは、神池なかよし会の他に、地元小学校で朝食提供のボランティアとして、
早朝に小学校に出向き、朝食を作って児童に提供しているそうです。
きっかけは、前職で教育委員会の社会教育に関わる仕事を30年間されていたこと。
「日頃から子どもたちの教育や成長を考える仕事だったこともあり、退職時には、社会教育で学ばせてもらった事が地域で少しでも役に立つのであれば伝えていきたいと思いました」と岡本さん。
後に、岡本さんの子どもたちへの想いや活動を知った地域の様々な団体から声がかかるようになり、現在のボランティア参加に繋がっているそうです。
「朝ごはんをきちんと食べることで、子どもたちがより集中力を持って学校生活を送ることができていると、先生方からこんなお話を聞くと、私としてもやりがいを感じています。」と岡本さん。
朝食は子どもたちの健全な発育、健康管理の観点からも大変重要であり、それぞれ個々の家庭を越えて、地域で子どもたちの成長を見守っていこうという考えが、自然に浸透しているとのこと。
「子どもたちの笑顔や元気な声を聞くと心がパッと明るくなり、私まで元気をもらっています。
地域の子どもたちのためにも家庭や学校の力になっていきたいという気持ちで頑張っています。」と温かい表情で語ります。
支え合って生きていくことの大切さ
「近所と深く付き合う文化は、昔に比べるとだんだん薄くなってきました。コロナ禍も相まって直接的な人間の交流の機会が減っています。人里離れたこの場所では、人と人が支え合って生きていくことの大切さと必要性を日々身にしみて感じています。」と岡本さん。
「何かあった時に支えになるのはやはり日常的に近くにいる人たち。だからこそお互いの暮らしに心を配ることが自然になされているのです。昔から伝わり残されてきた習慣や文化も時代の流れとともに変化してきています。それは当然のことでありながら、一方で未来に残していきたい文化や地域の良さもたくさんあります。生きていくということは人と人とが交わっていくことだと私は思っています。神池という山の奥の暮らしから伝わってきた知恵や習慣、村の人との密接な関係性も、私たち世代から将来へ引き継いでいきたいもののひとつですね。」
「自分が行う取り組みや想いが、誰かに伝わり、プラスに働いているなら嬉しい。また、それが新たな出会いや発見に繋がることで私も新たなパワーをもらうことも多い。目に見えない形で支え合っているのだなと感じ、心が豊かになっている」と話してくれました。
神池にしかないものを伝えたい
今回の“かみめぐり”で案内された田舎寿司作りも、お店で売っているようなおしゃれなものではなく、神池に伝わってきたもの、ここでしか作れないものに拘って企画されています。
物部といえばやはり柚子。神池オリジナルの爽やかな柚子が香る田舎寿司は絶品です。
「地元の皆の年齢は上がってきていますが、神池という場所を皆が大好きなのは変わらない。これからも神池に人が集まってきてくれるように、自分たちが元気でいることを意識しながら可能な限り活動を続けていきたいです。」と岡本さん。
私(筆者)は、今回神池地区に足を運んで、自然の豊かさに触れてみました。
山奥の豊かな自然、大日寺の大杉はジブリ映画のような世界観で、自然のパワーをもらえた気がします。
地域の方が自分たちの住む村の伝統や文化を守っている様子、地域のための活動をされている姿がとてもたくましく、改めて地域づくりに年齢や規模の大小は関係ないことを感じたと同時に、ご自身の経験で得たものを地元の村に還元されている岡本さんの姿にとても心打たれました。
私も香美市で生まれ香美市で育ちました。進学の過程で一時期県外で過ごしながら、帰る場所があるのは何となく当たり前に感じていましたが、今は故郷が変わらずあり続けていくことが何よりも喜ばしい事だと心から思います。
社会問題として少子高齢化が進行する中、郡部の地域を持続させていくにはたくさんの課題があります。
今回の神池の取材を終えて、その集落に活気があり、そこに住む人たちが元気に楽しみながら生きていることが持続可能な地域づくりの為に、何よりも大事だと感じました。
微力ながら私にもできる小さなことから始めてみようと思います。
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【外部リンク】かみめぐり 歴史ある山里で柚子酢(ゆのす)香る田舎寿司にチャレンジ!