「としの夜の晩に男の人が泊まりに来たらしあわせがええ」とは昔からよくいわれていることである。

ある年の大晦日の夕方、阿波の遍路(へんど)がやって来て、「今晩泊まらしてくれんか」というた。
家内一同よろこんで「どうぞ」というて泊まらせた。

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一夜あけて元日になった。

女房は「しあせのええ年をむかえた」と言いながらせっせと雑煮を炊き、お燗をし、目出度い正月ぢゃとごちそうをどっさりこしらえてへんどをもてなした。

盃をかわしているうちに亭主が「阿波ぢゃ元日にどんなご馳走を出すぞのうし」と問うと、「こがしいだ、かきだし、もちだし、あとはなくわい」というた。
亭主は「この目出度い正月早々、えんぎの悪いことを言う不都合な奴ぢゃ」とカンカンになって、たたき出さんばかりにへんどを追い出した。

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そのあとへ隣の男が門明けにやって来た。

「目出度い元日に、えらい不機嫌な顔をしちょるが、一体何があったぞ」というと、亭主は「よんべ阿波のへんどを泊まらしたが、今朝、阿波ぢゃ元日にどんなご馳走をするぞと問うたところが『子が死んだ、かき出し、持ち出し、後で泣くわい』とえんぎの悪いことをいうので、腹が立って、さきほど追い出したところぢゃ」というた。

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「お前や土地の習慣というものを知らんき腹も立っつろうが、阿波ではイダをとって干しちょいて、元日にはそれを焼いて“こがしイダ”というて一番先に出す。それから柿を食い、餅を食い、あとで菜を食う習慣がある。へんどはそれを早口でいうたのでえんぎ悪うにきこえつろうが、悪いことは一つもいうちょらんぞ。さあ正月ぢゃ、祝おう」

というて気分をとりなおし楽しく盃を交わしたと。

出展:韮生雑記 むかしまっこう 著者:松本実

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地域によって習慣も文化も、もしかしたら常識も違うもの。
大切なのはお互いが敬意を払い、多様な価値観を認めること。最近は日本語でも「リスペクトする」なんて表現が聞かれるようになりました。

移住される方も、既に地域でお住まいの方も、お互いがリスペクトし合える関係を作れるよう、NPOいなかみは活動してまいります。

来年も引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

NPOいなかみ

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