酒好きとって、待ちに待った忘年会・新年会シーズン到来。

香美市にある酒蔵3社の中で、昨年はフランスまで進出を果たした老舗酒蔵をご紹介いたします。

 外観

創業明治10年(1877年)。JR土佐山田駅前にある「株式会社アリサワ」は、140年以上、創業当時と変わらぬ場所に酒蔵があります。

酒米は日本の代表的な「山田錦」、「雄町」、高知県で開発したオリジナル酒米「吟の夢」などを商品毎に吟味し、酵母には主に高知県で独自に開発されたものを中心に、商品の特色に応じて使用しています。

この原料米の豊かな味わいと芳醇な香りを引き出す名水が、物部川の清浄な伏流水。元より高知県の水は超軟水で吟醸酒造りに向いた水質と言われていますが、その中でも穏やかな長期発酵に向いた特有の水質を有しています。

素材はバッチリ。でも、それだけで良いお酒ができるわけではありません。

麹

現在の5代目当主有澤浩輔さんは杜氏でもあり、モットーは「搾るまでは手間をかけ、搾ってからは手を加えず」。

1,搾るまでは手間をかけ

まず、仕込みは「もろみ」管理を徹底するため、1回に1000kg以下の少量仕込み。もろみが発酵を終えると昔ながらの酒槽(さかぶね)で「もろみ」を搾ります。

この酒槽は通常、大吟醸クラスのお酒にしか使用しない圧搾機。「もろみ」にストレスをかけない適度な圧力でじっくりと搾ることができるため、搾りたての美味しさを味わっていただくことができます。

2,搾ってからは手を加えず

・無濾過(むろか)

日本酒は通常、出荷前に活性炭素濾過作業を行いますが、アリサワでは行いません。これは香味のバランス調整、流通時の品質劣化への予防等の効果がありますが、その反面、日本酒本来の香味を削ってしまう一面があります。しぼりたての酒がもつ豊かな味わいと、「みずみずしい香りをできるだけそのまま味わっていただきたい」との想いから無濾過にしています。

・生貯蔵

日本酒は通常、出荷までに2回の加熱処理を行います。1度目は、酒中の酵素活性を止め、生老香(なまひねか)の生成、甘垂れの発生を防止するため。2度目は瓶詰め時の火落菌による腐敗防止のため。しかし加熱処理を重ねることにより、酒の熟成がすすみ、鮮度が失われる一面があります。

アリサワでは鮮度の高い酒を年間を通じて味わっていただけるよう、1度のみの加熱処理(瓶燗法)後、-5℃の冷蔵庫にて貯蔵しています。

「もろみ」を搾り、酒と酒粕に分ける上槽(じょうそう)をしてから、低温のまま滓(おり)引きをし、直ちに瓶詰め。一度の瓶火入れの後、急冷し、氷温の冷凍庫にて保温。フレッシュで清涼感あるみずみずしい味の裏側には、飲んでいただくタイミングでの品質にこだわる、社長の手間と想いがあるのでした。

熱処理

アリサワの銘柄「文佳人(ぶんかじん)」の由来

「文化人」ではありません。

この言葉は二代目当主宗策が命名したもので、由来は江戸時代に遡ります。

今を去ること400年ばかり前、「お婉さん」と呼ばれた女性がいました。

その父は、土佐藩執政の野中兼山。江戸時代初期に目覚ましい勢いで治水工事や新田開発・港湾整備を行ったのですが、その苛烈な政策が反発を買い、失脚、幽閉の身となり没しました。

その後も兼山の遺族たちは、一族の根を絶やすというお仕置きで、現在の高知県宿毛市に幽閉。一家が放免されたのは家族の男子の全員が死した40年後のことで、残っていた数人の女達の中に、兼山の娘「婉」がいました。

この「お婉さん」、宿毛での幽閉中にも土佐南学の師・谷秦山の支援を受け、文通によって儒学や詩歌、医学の指導を受けていました。40才を過ぎてからの放免後には、現在の高知市に移り、貧しい人のために薬をつくり医療を行い、その生涯を全うしています。

この話は大原富枝さんの小説「婉という女」で有名になり、舞台や映画にもなっています。

漢文を始め、学問に優れた教養人「お婉さん」。

アリサワの二代目宗策は、この「お婉さん」を称え、「文の佳人」=手紙・文・詩歌・広くは学問に秀で、教養にあふれた美人である、とし、「文佳人」という酒の銘柄を命名したのでした。

香美市土佐山田町には、婉が家族の魂を祀った「お婉堂」があり、また父・兼山の晩年の偉業である「山田堰」址もあり、野中家に関わる言い伝えが今も脈々と息づいています。

受賞

世界に羽ばたく「文佳人」

近年、日本酒の品評会で当然のように受賞されている「文佳人」。先月には「四国清酒鑑評会」で優等賞を受賞されています。

これら数々の受賞歴で、特筆すべきは昨年のこと。「文佳人 純米酒(1800ml表記なし)」がフランスで開催された日本酒のコンクール「Kura Master」にてプラチナ賞を受賞するという快挙を達成。出品総数550銘柄の中でTOP5に選出されました。この酒米は岡山県産アケボノを55%という特別純米レベルまで磨き上げたもので、かすかに吟醸香が漂い、豊潤で柔らかく、フルボディタイプのお酒です。香美市内のいくつかの酒販店で販売していますので、みなさまもぜひお試しください。

これだけ酒造りにこだわりがある酒だけに、飲み方にもこだわってほしいと思っているのではないかと社長に伺うと「飲む人がおいしいと思う飲み方で飲んでほしい」と、さらっと言われてしまいました。

また、ある記事には専務である奥様がこのように語られています。

心掛けているのは「女性や日本酒を初めて飲む人が飲みやすい酒」を造ること。「文佳人を飲んで日本酒を好きになるきっかけ、日本酒の入口にしてもらえたら嬉しい」。

12月はおいしい新酒ぞくぞく登場してくる季節。

自分がおいしいと思う温度、方法で、おいしく楽しく、飲み過ぎ注意で、日本酒をお楽しみください。(^^)

アリサワ専務

〜追伸〜

社長おすすめの日本酒の飲み方

少し冷やす。

ワイングラスのように飲み口が薄く、少し広がっているような酒器に入れる。

香りを楽しみながら飲む。

筆者おすすめの日本酒の飲み方

鍋で熱湯を沸かし、火を止める。

酒タンポ(ちろり)に日本酒を入れ、熱湯に浸ける。

日本酒の対流が見えてきますので、あまり対流が激しくならないうちに取り出す。

NPOいなかみ

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