島根県の中山間地域研究センターが「地域おこし協力隊の先輩から後輩に伝えたい「心得集」」という、興味深い冊子を作成していました。読み進めると、なるほど!これは役立つし面白い!と感じましたが、反面、これだけでは地域課題は解決されないのではという本音もありました。
おもしろさのポイントは「経験のマニュアル化」 課題に感じたポイントは「良くも悪くも民主主義」という点でした。
地域おこし協力隊10の心得
本冊子の内容は、「地域おこし協力隊の活動あれこれ」「よくある課題と乗り越え方」「協力隊の“心得”」の三部構成で成り立っており、暖かみのある手書きフォントで、これまでの経験を後輩に託すという親しみやすい内容となっていました。
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【協力隊の“心得”】
1.「のんびり」「しっかり」
2.進路のことは、早めに考えよう。
3.地域のペースや成り立ちを尊重する。
4.「志」と「自分らしさ」
5.自分の立ち位置を見極める。
6.神経質には、なりすぎないように。
7.自分だけで仕事を抱え込まない。
8.相談できる人を見つける。
9.「対立的」にならないようにする。
10.楽しくやるように心がける!
(引用)地域おこし協力隊の先輩から後輩に伝えたい「心得集」より
http://www.pref.shimane.lg.jp/chusankan/shien/chiikikokoroe/kokoroe.html
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地域おこし協力隊は、担当するテーマはあるものの、かなり自由度の高い仕事だと聞いています。ですので、こういった先輩の経験を伝える冊子は、着任直後の隊員にとって非常に心強く、仕事の効率を上げてくれるものだと言えます。
ただ、冊子を読み進めると、地域みんなの声を聞き、地域の想いを大切にして物事を進める民主主義的手法が重視されていたため、“やりやすいことしかやらない”という状況が生じているのではないか、という危惧が生まれました。
民主主義が持つ課題
もちろん、田舎に行けば行くほど、地域を無視して取り組みをすすめると、共感が得られず継続できないという例はたくさんあります。それは香美市も同じです。だから時間をかけてじっくり地域を巻き込んで取り組みを進めています。しかし、そうやって皆の声を尊重しすぎると、実は上手くいかないという話が、下記サイトに紹介されていました。
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【情報元】サイボウズ式
「民主的なチーム」が崩壊した話
http://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=16060
(引用)
ある時期に僕が所属していたチームは、とても「民主的なチーム」でした。チームリーダーは意見を押し付けるような物言いを一切しない人で、僕たちメンバーの話をとてもよく聞いてくれました。
・・・中略・・・
しかしこのチームは(働いていた会社はサイボウズではありません。念のため)、ビジネスという観点では全くと言っていいほど成果を上げることができなかったのです。納期は予定より2回も延期され、プロダクトのリリース後も目標としていた数値を達成することができず、最終的にはプロジェクトは中止・チームは解散という憂き目にあいました。
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地域の軸となるビジョンの必要性
上記の引用は、民主主義はとてもいいシステムで気持ち良く仕事ができるけど、そこに目指すべきゴールやビジョンがなければ、妥協したものしか実施できない、といった内容でした。これはもちろん地域にも当てはまることです。
多くの地域は人口減少や担い手不足といった課題を抱えています。でもそこに住む住民の気持ちには、活性化を望みつつも、不安要素は入れたくない、といった本音が隠れています。どちらも大切だからこそ、迷いが生じ、決断を鈍らせます。 だからこそ、その地域の軸となるビジョンが不可欠となります。
地域にビジョンが無いという嘘
「ビジョンが大切」という言葉は、市民活動やNPOでは当たり前のように語られます。でもそれをしっかり掲げているところは非常に少ないです。じゃあ本当にビジョンが無いのか?というと、それはきっと嘘です。必ずそこにいる誰かは、こんな地域にしたい!といった想いを持っています。
でも、そこに民主主義が働くから、それにしようという決断ができなくなる。みんなの為、という素晴らしい気持ちが課題になってしまっているのです。
「とりあえずビジョン」のススメ
本冊子を見ると、地域おこし協力隊員の多くは、3年の任期の後は他の仕事を選ばざるを得ない状況にあるのではと感じました。せっかく3年間地域と共に生きるのに、結果そこに残れないのは悲しいことですし、意味が無かったと批判される恐れもあります。
それを解決する糸口が「とりあえずビジョン」を決めてしまうことだと私は思っています。とりあえずでも地域が向かうべき方向を決めさえすれば、地域にとって本当に必要なことが自然と見えてきます。必要なことが見えてくれば、それは仕事に繋がる可能性も高い。そうなれば隊員が任期後も地域に残り、地域の役割を担う存在になる道も見えてきます。
ビジョンの後で民主主義
この「とりあえずビジョン」を決めた後こそ、民主主義が力を発揮する時だと思います。地域の軸を持った上で、皆の意見を吸い上げて、おかしいところは修正していく。大枠がズレなければビジョンも書き換えていいと思います。その形をつくることができれば、地域おこし協力隊員を中心に、地域が活性化していくイメージが沸いてきます。
そして最後に、そのビジョンづくりに欠かせないのが、この冊子にある「協力隊の“心得”」であるはずです。地域作りは1人ではできません。みんなの協力が不可欠です。でもみんな過ぎると妥協しか生まれない。だからビジョン。活性化を本気で考えるなら地域のビジョン、決めましょう!