★香美市にゆかりのある素敵な方をご紹介!
矢田幸嗣さん 大栃中学校 社会科教諭
香美市物部町。矢田幸嗣さんは、全校生徒30名ほどの小さな山間の中学校で教壇に立つ、エネルギッシュな先生。『アドベンチャー教育』という教育手法を携え、生徒の主体的な気付きと学びを促し成長につなげていくスタイルは、これまでの教育の在り方に新しい風を吹き込んでいます。
アドベンチャー教育との運命の出会い
いなかみ
初めてお会いしたときに40代?と思ったくらい、矢田先生はとにかく感性が若くて情熱的な方だなぁという印象があります。改めてお伺いしたいのですが、先生が現在の活動をされるに至った経緯を教えていただけますか?
矢田さん
大学の専攻は社会福祉で、ボランティア活動や学童保育のアルバイト、キャンプリーダーとかいろいろやった。卒業後は高知に戻ってきて、しばらくは普通に社会科の教員をしよったがやけど、土佐山田町の教育委員会に入ってから活動的になってきたね。養護学校と小学校、中学校、高校の交流キャンプに関わったり、野外教育の研究会を作ったり。そんなことをしゆううちに、今は玉川大学で教鞭をとられゆう難波克己先生に出会ったがよ。35歳の頃やったかな。
いなかみ
体験学習の権威である難波先生に出会われたんですね。
矢田さん
そう。それが『アドベンチャー教育』との出会いでもあった。今までのものの見方や考え方とのあまりの違いに衝撃を受けてね。5年前、大栃中学校に福祉教育を導入したときにも、難波先生には年2回くらい来てもろうて、生徒も教員も地域の方も一緒に学ばせてもらったがよ。
いなかみ
へぇ~、地域の方もなんですね。そういえば、矢田先生は学外でもいろいろ活動されてますよね?
矢田さん
うん。『高知アドベンチャー教育研究会』と、そこから派生した『香美しぜん学校』っていうNPOに所属しちゅう。それから、県ボランティア・NPOセンターの委員(福祉教育の新たな展開に向けた検討委員会)と、障がい者スポーツセンターの委員。あと体験学習のお手伝い。
アドベンチャー教育とはなんぞや?
いなかみ
そうすると、アドベンチャー教育と福祉教育の二つが、矢田先生の柱なんですかね?
矢田さん
やりたいのは、アドベンチャー教育と福祉教育の融合やね。どちらもベースになるのは体験学習の考え方。体験学習には(体験)→(振り返り)→(一般化)→(応用)っていうサイクルがあって、そこに互いの尊重であったり、主体的なチャレンジの仕掛けであったり、目標設定~リフレクションっていうエッセンスを入れていく。
いなかみ
なるほど~。そのアドベンチャー教育について、簡単に説明していただけますか?
矢田さん
グループの力を活用して個人の行動変容を促す教育手法やね。例えば、クラスで目標を設定するときに「何のために?」っていう目的の部分をクラスの全員が共有しておくことで、個人とクラスの関係性が意識されるでね。そうすると、クラス内での個人の役割も明確になる。後でリフレクション(振り返り)をするときに、個人とクラスの関係、個人と個人の関係、個人の内面について、必要に応じて行動・感情・認知面へアプローチすることによって、気づきと学びを促す。
ここでは、できたから良い、できないからいけないではなくて、何に気付いて、何を学んで、どう成長するかが大切な視点になってくるがよ。あと、難波先生はいつも「学びの環境をいかにデザインするか?」っておっしゃっていて、自分もすごくそれを意識してやりゆうつもり。安心で安全な環境が前提としてあってこそ、人は最大限のパフォーマンスを発揮できるきね。そんな環境のもとで、自己開示とフィードバックの繰り返しによって人は成長していく。
いなかみ
安心感を得られる環境って、ホント大事ですよね。自分はここにいてもいいんだっていう安心感や心地よさって、生産性や創造性の源泉になるような気がします。
矢田さん
そうながよ。子どもの学力の話をするときも、個人の努力以前に、教室の中が安心で安全な環境じゃないと勉強に身が入らんよね。職場も同じ。上司や先輩に頭ごなしに企画書を否定されたりしたら、やる気出るわけない。そこの理解がもっと広がったら、高知の学力は今以上に伸びると思う。
金八先生は目指せない
矢田さん
いなかみさん、質問やけど、人ってどういう時に安心する?
いなかみ
え~と・・・共通点が見つかったときですかね?
矢田さん
正解! 安心で安全な環境にするために共通の話題や体験が必要やから、例えば「このグループの共通点はなんでしょう?」って問いかけてみたりする。そうすると、共通点を探るには話し合いが必要やから、そこにコミュニケーションが生まれて、それも安心感につながっていくわけ。
いなかみ
なるほど~。そうするとファシリテーター(促進する人)の役割って重要ですね。
矢田さん
うん、ただ理想的には、ファシリテーターがいなくても自分たちだけで成長できる関係性にならんといかん。だから、ファシリテーターはできるだけ答えを言わず、参加者に委ねる。答えを言ってしまうと受動的になるでしょ。そうじゃなくて、引き出す。相手が主体的に考えるためのヒントを出すくらいの役割。
ファシリテートって上手くいく場合もいかん場合もあるけど、魔法ではないし、それはそれでかまんと思う。ただ、どこまで持っていきたいかっていう全体の見通しはいるね。それを頭に入れておいて、リフレクション(ふり返り)のところで問題提起を投げかけるわけ。で、グループの状態や個人の様子を見ながら、相手からの返答に対して肯定的な意味付けをしていく。もう僕も15年くらい勉強しゆうけど、なかなか難しい。まだまだ道半ばやね。
いなかみ
学校で、生徒に対しては叱らずに褒めてあげることが多いんですか?
矢田先生
いや、そんなことはないで。叱りますよ。やっぱり子どもやき、未熟なところはあって、そこは指導せんといかん。ただ、その子が本質に近付いていくように、モチベーションが上がるように、言葉の使い方には工夫が必要やけどね。
例えば、行動を否定せずに認めてあげる。作業の時間に私語をしている生徒がいれば「いま何の時間だと思う?」って聞く。そうすると、その子は考えるよね。「作業の時間です」と返ってきたら受けとめて、「そうだね。じゃ、作業しよう」って言う。そんな感じで、相手が主体性を持ってモチベーションを上げていくような投げかけをするわけよ。矛盾するようだけど、教師は完全なファシリテーターにはなれない。難しいよね。
いなかみ
矢田先生の本質を捉えた教育観ってすごく先進的で、これからの時代に必要になってくると思います。
矢田先生
いやいや(照) 子どもってグループ内の関係性ができれば、ぐんと成長するがよ。グループ内で肯定的な意見交換ができて、課題解決ができるような関係性ができればばっちりやね。これは経験則から言って間違いない。
僕は金八先生のスタイルは理想的ではないと思いゆう。あれもいいけど、あれは金八先生しかできない。先生がスターになったらいかんがよ。スターは生徒の中におって、場面場面で変わっていく。リーダーはおるけど、スポットライトが当たる人は順番に変わっていくのがいい。それが子どものやりがいや生きがい、達成感につながっていく。それを仕掛けるのが、僕ら教師の役割やと思いゆう。なかなかうまくいかんけどね(笑)
教育は香美の山間から
いなかみ
移住を検討される方にとって、子どもの教育環境がどうなのかということは、すごく大きな要素だと思います。最後に、今後の矢田先生の展望をお聞かせいただけますか? すごくたくさんやりたいことをお持ちだと思いますが(笑)
矢田先生
これからの香美市のキャリア教育にすごく期待しちょって、それに、力を入れていきたいと思いゆう。それから、香美しぜん学校が佐岡小学校の有効活用に向けてこれから頑張っていくと思うので、その手伝いをしたいな。あと、地域福祉を通した福祉教育をどんどん実践していきたいね。
いなかみ
やっぱり(笑) 僕も子どもの頃に矢田先生のような方に習いたかったなぁ。今日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました!
【外部リンク】
香美市立大栃中学校
http://www.kochinet.ed.jp/odochi-j/