2021年7月発行の「いなかみだより№38」をお届けいたします。

香美市の移住者インタビュー06

Outdoor & Café Ocho (オーチョ) 西奥 起一さん  栄利子さん

香美市香北町永野に移住して13年目となる西奥さんご夫妻。変化しつづけるOchoの活動について、今につながる歩みも含めて、たくさんお話しいただきました。

店舗入口

西奥 起一(きいち)さん 2001年にメキシコに渡り、美術学校の創設に関わる。その後、現地大学の客員アーティストとしてご自身の創作活動を行う他、アート講師も担う。

西奥 栄利子(えりこ)さん 起一さんの渡航半年後より、日墨交換留学生としてメキシコに滞在。アート・クラフトを学び、現地の芸術アカデミーこどもクラス講師を担当。

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メキシコでおふたりが共に暮らしたアパートの部屋番号は(スペイン語でオーチョ


 関西出身のおふたりは、2005年に帰国した際に知人のいる茨城県に立ち寄り、たまたま300坪土地付き平屋をみつけ、茨城に住むことを決めた。

 起一さんは、幼少期から生き物の世話が好きだったこともあり、一次産業に従事したいと養鶏場に勤務し始めるも、そこは「ビルのように何段も果てしなくゲージが並ぶ養鶏場」で、予想外の光景だった。畑も含め、食べ物の生産現場を知らなかった起一さんは衝撃を受け、借家の土地で畑を始め、鶏を5羽飼うことにした。鶏が面白いと思うほど養鶏場の勤務がきつくなり、介護職の資格を取って転職。

 一方、栄利子さんは製菓工場の作業場に勤めたが、美術系大学出身ということもありデザインの仕事に誘われ、夜遅くまで働くようになっていた。

 次第にお互いの生活時間帯がすれ違うようになり、「何のために暮らしてるのかな」と思い始めた。そして、「あの当時の田舎で、ふたりで生きていけることを探し、お店をすることをイメージ」する。起一さんは再度転職し、イタリア料理店に勤務、料理やマネジメントを勉強。水戸の芸術センターでガイドボランティアをしていた縁もあり、アートギャラリー&カフェにちょうどよい物件も見つかった。茨城での開業前の2008年2月、大学の後輩が高知市内で営むカフェを訪ねたタイミングで、流れが大きく変わったのである。


Ochoとなる古民家との出会い

高知から茨城に戻る夜行バスの出発まで後4時間と迫る中、はりまや橋近くのカフェで「本当は鶏もやりたいんやけど。鶏飼って卵を生産して、その卵で料理する店」と、茨城の物件では出来ない構想を何気なく話したところ、「いいところがある」と慌ただしいドライブで連れてこられたのが、香北町永野。「ここが空いているよ」と古民家2軒の外観だけを案内された。「夕方も薄暗くなっていく時間。木のボロボロの電柱があって、その電球がふわ〜っと点いた。その様子がもの凄く綺麗だった」と一本の古電柱が印象に残った。その後、夜行バスに乗り込むと、茨城から「店舗物件は家主の親戚に貸すことが決まった」と、まさかの破談電話がかかってきたのである。奇遇な出来事の重なりで、それから2ヶ月後の2008年4月、西奥夫妻は香美市民となった。

 

養鶏と、ギャラリー・カフェのオープン

永野に引っ越してきて、まずは鶏を飼う準備に取り掛かる。鶏小屋を建てるにあたっては、DIYをしたことはあっても、小屋を建てた経験はなかった。家には、足場丸太が沢山残っていたので、それを使うという安易な感じで作っていたところ、近所の方から「台風で飛ぶで」と指摘を受ける。その翌日には、おんちゃんが山から切り出してきた丸太が家の前に積まれていたそうである。

夏までに鶏小屋を建て、さらに古民家をお店に改修し、2009年1月にGallery&Café Ochoをオープン。料理メニューは、オムライスやカルボナーラを中心に展開。濃厚なプリンも人気となった。

メインの素材は、自然卵養鶏の考え方をもとに育てた鶏の卵である。鶏は広い小屋の中を自由に歩き回っている。飼料は、近隣の農家から出る野菜や緑草、近くの施設からも全面的な協力を得る食料残渣、常に意識してコイン精米機から集める糠、そして年に一度、集落営農組合から買い取るくず米。ときどき、JAから購入するカキ殻を加える。通常の養鶏では多量に用いられる薬剤は与えない。当初から現在に至るまで、身近な循環の中で養鶏を続けている。

「キセツノオヤサイ葉屋」さん栽培のグリーンボール外葉が入ったコンテナ(右)。すでに空になったコンテナ(左)。葉屋さんの拠点は香北町永野、鶏小屋の近くにある。
「キセツノオヤサイ葉屋」さん栽培のグリーンボール外葉が入ったコンテナ(右)。すでに空になったコンテナ(左)。葉屋さんの拠点は香北町永野、鶏小屋の近くにある。
−砂蹴りもでき、広々と動き回れる鶏舎。とまり木もある− ある日、お子さんは小学校で「アップサイクル」の考え方を学んできた。アップサイクルは、どこか遠くの世界のことではなく日常の営みの中にあると気付くことになった。Ochoの発酵飼料は、捨てられるはずのものが役割を変え、活かされている。
−砂蹴りもでき、広々と動き回れる鶏舎。とまり木もある−
ある日、お子さんは小学校で「アップサイクル」の考え方を学んできた。アップサイクルは、どこか遠くの世界のことではなく日常の営みの中にあると気付くことになった。Ochoの発酵飼料は、捨てられるはずのものが役割を変え、活かされている。

キャンプブランドの立ち上げ

カフェも軌道に乗り2人の子どもに恵まれ、長年の趣味だったキャンプを再開する。久しぶりに道具を入手しようとキャンプ用品を調べたことをきっかけに、カフェにキャンプ道具屋を併設しようと仕入れに動くが、市販品にはピンとくる物が少なかった。それならば、自分たちでキャンプ用品を製作しようと、2015年にOcho Campを立ち上げる。「メキシコ産の布や土佐打刃物など、職人さんと力を合わせる形であれば、自分たちの不得意な分野でも製品化できる」と展開が見えた。子どもたちと高知の自然を楽しみながら、キャンプブランドも成長させていければと考えていた。

 

 

高知市の家具職人に制作を依頼しているOchoオリジナルデザインのテーブル
高知市の家具職人に制作を依頼しているOchoオリジナルデザインのテーブル

 

アート表現のある時空を、香北へ呼び、種をまく

「子どもを育てるために、仕事中心に考えて暮らしを作っていたけれど、何か抜け落ちているところがあるっていう感覚がずっとあった。年々、文化的なことに触れたい気持ちが出てきていた」という栄利子さん。そこで、栄利子さんがひとりで海外の友人アーティストに会いに行く計画を立てるも、考えるうちに「行ったら終わる出来事ではなく、経験をこっちに持ってくる」発想が生まれた。起一さんには「僕らはここを選んで来たけれど、子どもたちが成長していく中で、ここの環境だけでいいのかな」という思いもあった。

「アーティストが来ることによって、自分たちも刺激を与えてほしいし、周りの人にもいい影響になるのではないか」と、作家が特定の地域に滞在しながら作品作りをする“アーティスト・イン・レジデンス”の手法を用い、2018年は埼玉から、2019年はロサンゼルスからアーティストを招くことになった(『エアライト高知』として高知県芸術祭参加)。アーティストと過ごした時間の中で、さまざまな交流の場面を目撃し、「思考をとどめない」「自分の環境を変える」ことを意識した栄利子さんは、「個」の環境に身を置くソロキャンプを始めることにしたそうだ。また、Ocho自らが外に出ることを決め、 2020年2月から南国市で『こどもアート教室』を毎週開講。今年4月からは香北町内でも開講した。

アートについて、起一さんは「世間に対していろんな方向から物を見て、今これは問題なんですよ、僕にとってこれが問題なんですよ、世界にとってこれが問題なんですよ、と問題を提示するのがアーティストの仕事。子どもたちが、身近なことを探求して答えを増やすだけでなく、もう一つ上に自分で問題を設定するっていう意識を持てたらいいと思う。その問題を解決していこうとする力そのものがアートであり、アートの考え方である」と話す。 栄利子さんは「自分で感じたことや発見したことを視覚的に伝える方法として、ビジュアルアートがある。表現するには、どういう風につくったり、描いたりして伝えるかといったことを、考える経験そのものが大事。毎週やっているうちに、生活の一部になっていったらいいんじゃないかな」とお考え。おふたりには、こどもアート教室が「正しいとか、うまい下手とかではなく、型にはまらない表現を認める場であれば…」という思いもあるという。教室のテーマは “一人で 考える力を 育てる” である。

 

時代を生きるOcho

2021年3月、Ochoは1ヶ月半の休業を経て、Outdoor&Café Ochoとしてリニューアルオープンした。店内を大幅に改装し、お客さんを迎える営業日をぐっと減らした。1年前に始まったコロナ禍で、考え方が変わったという。「これまでは、前に前に進むことばっかりだったけど、コロナで強制的にストップさせられたことで、なんか止まった方がいいなっていう風に気づいた。いろんな状況とか環境とか世間が変わってきている中にあって、10年間続けてきたサイクルを見直す機会になった」そうだ。

 

−組み立て式の薪ストーブ− 火の粉が舞い上がらず、調理も出来るので、気軽に火を焚くことが出来る。人気が高く、メーカーの方も不思議がるぐらいの発注数となっている。起一さんは、庭のある家が多い高知ならではの傾向かと分析。
−組み立て式の薪ストーブ−
火の粉が舞い上がらず、調理も出来るので、気軽に火を焚くことが出来る。人気が高く、メーカーの方も不思議がるぐらいの発注数となっている。起一さんは、庭のある家が多い高知ならではの傾向かと分析。

もともと売上の波が大きい飲食業に加えて、キャンプ道具の販売を積み上げていた経験から、栄利子さんは「自分がその場にいないと成り立たない仕事だけやってたら、田舎ではちょっと厳しいなっていうのを感じていたので、ネットで販売するとか、誰かに作ってもらうなど、仕事の種類として何個か用意しておくっていうは大事」と話す。さらに、起一さんは「全く逆の話なんやけど」と前置きし、「ほとんどが発注で作ってもらっていたキャンプ道具は、コロナでメキシコからの輸入がストップしたことで、今までやってきた商品ラインナップから消えていく。工場も連絡取れず、在庫があるのかどうか確認が出来ない状況」となったことから、「自分たち2人で、ここで、作る商品の開発もする。いろんなパターンを作っておこうと考えた」とのこと。

−鹿のオブジェ− 外出が難しくなった昨年のGWに製品化。散歩して見つけた枝を持ち帰るというような”自然を感じるきっかけ”を生む機能を意識。挿す枝ごとに表情を変える。
−鹿のオブジェ−
外出が難しくなった昨年のGWに製品化。散歩して見つけた枝を持ち帰るというような”自然を感じるきっかけ”を生む機能を意識。挿す枝ごとに表情を変える。

 

「いろんな小さいものを散りばめたみたいな生活が、今の僕らにはあっているかな」と話すおふたり。


 

 アートも、カフェも、キャンプのスタイルも、時代の流れと共に、家族の成長と共に、変化し続けるOchoさん。これから続く活動も楽しみです!

(記事作成:NPO法人いなかみ)

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