NPO法人FUSEとNPO法人いなかみの連携企画「個人事業」をテーマにした連載記事、第20回(最終回)をお届けいたします。

ネットの田舎道具専門店でも有名な大栃の山崎商店は創業120年という大老舗。今回は有限会社山崎商店オーナーの山崎篤之さんにお話を伺いました。

山崎商店12

山崎商店15

山崎商店6
創業120年の山崎商店、シャッター店が多い大栃の商店街の中でずっとこの町を見守って来ました。

20代の頃にUターンした4代目社長

今年120年になるみたいです。一番最初はうちのひいひいばあさんが旅籠をやっていたそうす。僕は四代目で、ここを継いで16年目。昨年社長になり、インターネットでの販売は2年目なんです。僕はもともと大学で建築デザインを専攻してランドスケープを勉強していたんですが、なかなかメジャーな仕事にはつけなくて、20代の頃、祖父の店を継ぐ必要もあって大栃へ帰ってきました。

まぁそんなことですから、最初はこの辺の生活でわからないこともたくさんあって馴染むのが大変でした(笑)。

昔からガソリンとプロパンガス、土木建材や塗料、日用品、お米と、あらゆるものを扱って来た店です。もともと物部川のダムができた経緯でお店が大きくなったそうなんです。当時はダムの工事関係者がたくさん来て、この地域に1万人以上の人がいた時期もあって、たいそう栄えた場所なんです。

映画館もあったそうですよ。飯場もたくさんできたりして、そこにお米を入れたり、燃料を入れたりという仕事をしていたんです。今はどんどん過疎になってきていますが、大栃はそんな賑やかな町だったんです。

山崎商店13

いろいろな田舎道具がいっぱいの店内。建材や塗料、生活用品までこだわりの道具が揃っています。

こだわりの老舗メーカーの道具

うちの店やうちのネットで扱っているメーカーさんは、創業60年や70年といった老舗のメーカーさんのものが多いんです。昔道具というのは、あまり流行りませんよね。だって今はもっと便利で小さいものがあるし、おしゃれなものもありますから。しかし非常に味わいがあり、長持ちするんですよ。

実は高知のそういった道具の卸屋さんがどんどん廃業して、老舗メーカーの商品が手に入らなくなってきています。僕はそれが店をやっていく上で一番大変です。例えば、トタンバケツ一つとっても老舗メーカーのものは取っ手のところをわざわざ木製にして持ちやすくしているんです。そんな老舗の商品を探してお客様にご提供できることは大変ですが、やりがいを感じます。

買い物は、たくさんの中から欲しいものを選ぶことが一番の醍醐味ですが、高知は消費者も卸業者もお店も少ないため、そんな買い物の楽しみが奪われてしまっていることが悲しいです。モールや大型店舗がありますので、確かに必要なものは手に入ります。

でも、一般の消費者は気付かないことかもしれませんが、高知の店舗は超大型店舗という訳ではないので、今売れてるランキング上位のものだけを購入させられているような気がしています。ですので、僕は専門性をもっとアピールして、ここにしかないものを提供できるようにこれからも頑張っていきたいんです。

 

山崎商店2

「電化に反対とか賛成とかいうことではなく、昔ながらの火を使った道具で暮らすこと自体が大事な文化だと思う」という山崎さん。「便利になればなるほど人間はちょっと退化していく。年がいけばいくほど注意力もなくなってきますよね。でもこの辺にいるお年寄りが元気なのは、昔ながらの暮らしを普通に営んでいることが関係してるんじゃないかと思うんです」

この仕事をしてよかった点、難しい点。

よかった点は、もう何世代にも渡ってずっとつき合いのある方々がお客さんだということですね。例えば、四世代にも渡ってお付き合いのある方もいらっしゃいます。最初のお客さんはおじいさんとかひいじいさんの世代だったかもしれないですが、その子ども、孫の世代までお客さんとして来てくださっているということです。

そういう近しい関係だと、何かと融通の利く面もありますし、逆に、楽をして商売してはいけないということも常に心に置くようになっています。買ってそのまま帰って終わりではないということです。次も必ず来てもらえるわけですから、どういうサービスをして、どうフォローしていくかを考えておかなきゃいけないんです。

通常、町の大きな店だったら売ったらそれで終わり。次も来てくれるかもしれないですが、お客さんの名前までは知らないわけです。でも、うちはお客さんのことを全員知っているんですよ。それはすごくいい点でもあり、難しい点でもある、ということですね。

山崎商店11

山崎さんが四季ごとに住民に出している手書きのチラシ。いろんな自然の楽しみ方、田舎暮らしの商品情報など読み応えたっぷり。これが来るのを楽しみにしている人も多いでしょうね。商品を買うと、手作りの土佐和紙しおりや、お菓子など、おまけもいっぱいで思わずうれしくなります。

中山間地域で事業を始めたい人へのアドバイス

正直とっても難しいと思います。例えばこの辺りでは、まずベースになる売り上げが立たないだろうと思います。お客さんの絶対数が少ないですから。商売を始めた方もいますが、ほぼ統計的な確率よりも早くに辞めてしまう方が多いです。やっぱり初めてということであれば、原価や一日の集客数など、売り上げのことを最初からかなりシビアに考えておかないと難しいんじゃないかなと思います。

飲食店だとしたら100人来るわけではないので、20人しか来ない、10人しか来なくても売り上げが立つようにしておかないといけない。例えば別にどこか大口を持っておくとか。そういうのがないと、なかなか難しいなと感じるので、その辺はやっぱり真剣に考えられたほうがいいんじゃないかなと思います。

あと、補助金をもらってやるなら、その補助金分をプールできるような状況でやらないといけないなと思っています。商売で甘えは禁物ですので。多分この辺りでお仕事を新たにされる方は、小売りではなく飲食や製造の方が多いんじゃないかなと思いますので、とにかく原価のかからないご商売をするべきだと思いますし、私も毎日悩んでいますが、この店にしかない売りが必要だと感じています。

あとは地元の人に来てもらうことを第一に考えていくことですね。外から来る人は結局増減が激しいので、当てにしたら痛い目にあうこともありますので。今、うちがネットストアをやっているのも、楽天さんに九千万人の会員さんがいるからですが、やはり通常そんなにお客さんを拾えるわけじゃないよなぁと思うんです。

山崎商店8

ネットの山崎商店「昭和レトロ手作り生活」 読んでいるだけでたのしくなります。このHPを見て田舎暮らしに憧れる人もいるようで、店長に問い合わせのメールが来たりするそうです。

10年後のビジョン

うちはプロパンガスの販売をしているので、人口が減っていくのは毎年のようにリアルに見ているんです。ざっと言えば、人口は多分10年前の半分ですね。

当然みなさんが高齢になっているので、さらに10年後はどうなっているか。今一番やりたいことは、雇用をつくることです。ものづくりでもインターネットでも、なんでもかまわないです。商売を大きくできれば、そこで働き口ができて人が定住すると言う循環が生まれますので。

今ある仕事の多くは役場関係のものなので、やはり民間で雇用をつくることが大事だと思っています。たった2000人ぐらいしかいない町なわけですから、全員が会社員であるというような意識が持てる場所になったらいいなと思います。徳島の上勝町の「はっぱ事業」みたいになったらいいですね。

僕は人見知りで性格的にあまりリーダーには向いていないので自分がやるのはちょっと、、(笑)。でも、いつかリーダーシップを取れるような方が出て来てくれるんじゃないかと期待しています。この地域に住んで、その良さを知ってもらうことはうちにとっても大事なことなので、移住促進を応援していきたいです。

うちがお力になれることもあるかもしれませんので、そういう部分でも応援していきながら、この地域の人口が減らないように頑張っていきたいと思います。

 

店内には私の祖母や母が使っていたお鍋や暮らしの道具がたくさんあって、じっと見入ってしまいました。わたし自身、昔ながらのものが好きで山崎商店のHPはよく見ていましたが、「大栃?どこから発信してるんやろ?」と思っていました。帰り際「大栃は水道水がうまいんですよ!それに有名なこんにゃく屋さんがありますよ」と山崎さん。それを聞いてまた来たくなりました。ガソリンが心細くなってもここにくれば入れられますし、ほんと田舎のオアシスみたいな場所だなぁと思った取材でした。ほしかった湯たんぽも無事購入♪

 

■山崎商店
高知県香美市物部町大栃1462−1
電話: 0887-58-2024

(マップ)

【外部リンク】
■田舎道具と手作り暮らしの山崎商店
http://www.rakuten.co.jp/inakadougu/

■山崎商店ブログ
http://inakadougu.com/

【関連リンク】
移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html

提供:NPO法人FUSE
企画運営:NPO法人いなかみ

この記事を書いた人

14914969_1836255106618008_586265616_n

【プロフィール】

渡辺瑠海 わたなべるみ
ライター、編集者、エッセイスト

放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。

コメントを残す

必須 ※お名前は公開されます。

<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>