NPO法人FUSEとNPO法人いなかみの連携企画「個人事業」をテーマにした連載記事、第15回をお届けいたします。

4年前に香美市へUターンし農業法人を立ち上げ、移住者を雇用して野菜づくり、商品づくりと忙しく活動する鍵山さん。3月には農林水産省が主催する「オーライ!ニッポン大賞」で「ライフスタイル賞」を受賞。(株)土佐龍馬の里 社長の鍵山武男さんにお話を伺いました。
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この仕事をはじめたきっかけ

ここはもともと僕の父方の実家で、代々受け継いできた土地なんです。父親は6人兄弟の長男で、ここは長い間、下の弟が継いでやっていたんですが4年前に他界してしまい、もし私が戻らなければ、あちこちにある畑が耕作放棄地になって、誰も住まないこの家は空き家になる。それじゃあいけない。このまま放っておくわけにはいかない。と思い戻ってくることにしました。

僕は東京に妻と息子がおり、高知と東京を行き来している状態のUターンです。長い間、物流の仕事に携わっていて、大学を卒業してから物流しかやっていない人間なんです。ただ、この会社を軌道にのせるには、生産者から買い取って販売するだけではとても利益が出ないので、加工品も作り、自分たちで生産するところまで持ってきたわけです。

また、僕はこの会社をやりながら、周りの人のお手伝いもしようと思っていたんです。特に高知県の不得意な物流や流通の面で、何かお役に立てるんじゃないかと思いながらずっとやってきました。

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ビニールハウスの中、芝生のように青々としたネギの苗がぎっしり。

農業との格闘

会社で農業を始めてみると、結構大変なんですよね。採算性とか生産性とか。農業ってシンプルな労働じゃないですか。若い2人が手伝ってくれていますが、彼らの健康面にも気を配ってやらなくてはいけですしね。誰でも簡単にできるような甘いものでは無かったです。

最初はリーダーになってやってくれる従弟が長く面倒をみてくれていました。彼が頼りになったので、ここと東京を行ったり来たりしてればいいだろうと考えていたんですが、一昨年に他界してしまって。それで頼らないでやっていかねばと思い、今はほとんど香美市にいます。

私は農業は素人ですが、これを何とか、まずは自分の会社を周りに迷惑をかけないようしっかりやっていくと。その上で高知県のいろんな生産者のお手伝いをしていくことができればと思っています。

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みずみずしいネギの香りが部屋いっぱいに広がっています。現在就業している若者2人が黙々と作業していました。

仕事をはじめて良かったこと、難しかったこと

僕はもう75歳ですが、この歳でやり甲斐のある仕事をさせてもらっているのは良かったことですよ。苦しいこともあるけど、とにかく地元の人たちと関係ができて、僕も少しは皆さんのお役に立てることもあると思えますから。

ただ、まだ本格的に動き出して間もないので、どこかで確実に経営の柱になるものを作らなければいけません。人件費がかかり、経費がかかり、素人だから結構ムダもある。ゼロから始めていますから、農業機器も少ない。そういうもの考えたらキリがないですが、そもそも5年ぐらいは大変だと予測はついていましたので、今が頑張りどきです。どこの企業でも同じですよね。

先日、農水省の「オーライ(往来)!ニッポン大賞」で「ライフスタイル賞」をいただきまして、それなりに認めていただいたんだなと嬉しい気持ちです。自分の頭と体が続く限り頑張りたいなと思ってます。

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(株)土佐龍馬の里HPより オーライ!ニッポン大賞は、全国の都市と農山漁村の共生・対流に優れた取り組みを表彰し、国民への新たなライフスタイルの普及定着を図ることを目的としたもの。主催はオーライ!ニッポン会議、農林水産省。平成15年より開催しており、鍵山さんの(株)土佐龍馬の里が見事「ライフスタイル賞」を受賞。

個人事業を始める人へのアドバイス

今作業している彼は移住で来てがんばってくれてます。NPOいなかみさんはしっかりやってくれてるから、ああいう人たちと連携しながらやるとうまくいくと思いますよ。僕も、若手の方をここで面倒みさせてもらって、2年間の研修が終わったらそれぞれ香美市で独立してくれたらいいなと思っています。しかし、農業は、独立してもいきなり会社作るのは大変だから、僕ができる範囲のサポートはしていきたいと思っています。

あと、農業に関して言うと、若手はとにかく年配者のノウハウを吸収すべきですね。私たちが関わるグループにも85歳の農業の神様みたいな人がいるんですが、青ネギの苗が枯れかかって困っていたとき、その方が山で間伐材を焼いた灰を持って来たんです。「これを撒いとくと全部よくなるから」って。花咲爺じゃないですけど、それで3日後ぐらいに苗が生き残ったんですよ。 そんなこと誰も考えられないじゃないですか。だからそういう人のノウハウを学んで共有しながら進めていける基盤が必要なんです。今、そういうのがやっとできつつあるんです。

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「最初は2反ぐらいしかなかった畑が、1町になった。若者と一緒に働いているとみんな貸してくれるわけですよ。そんなことを着実に毎日やっていくしかないんですね。これをどうやって活用するか考えているところです」と鍵山さん。

10年後のビジョン

10年後は85歳になっちゃうけどな(笑)でも多分ここは今の若手に譲りながらやっているでしょうね。私が高知県のプロジェクトとしてやっているだろうことは、CCRC(CONTINUING CARE RETIRMENT COMMUNITY)移住促進のシニア版ですね。

継続的なケアや生活支援サービスを受けながら、生涯学習や社会活動に参加する共同体を作っていけたらいいなと思っています。高知県は、首都圏や海外で活躍して、晩年は地方で趣味やマイペースに仕事して過ごしたいと考えている人には最適だと感じます。温暖で自然環境に恵まれていて、住みやすく人情も豊か。こうした僕自身の経験からも、シニア層の高知県移住を勧めていきたいんです。

あとは、僕の今までのノウハウを活かして物流改革をしていきたいですね。高知県の農産物を高知県で加工してB級グルメにしたりとか、いろいろなことが考えられます。ただ、中小企業や生産者が自分のところで設備を作って、食品衛生法の管理もしながら加工品を作るのは結構大変です。荷物を増やして、それで輸出や国内販売をしていくには、どこかに加工特区が必要だと思っています。

それから港を一箇所に集めるのも大事かなと。実際この四国4県にはコンテナターミナルが6つもあるんですよ。そんなに要らないです。どこかへ集約したほうがずっと効率的です。瀬戸内海はそれなりに貨物がありますけど、実は一番海外に出やすいのは高知港なんです。 だからどこかでみんなが一緒に加工品を作って海外に出せばコストが下がるし、新しい商品開発もできるんじゃないかなと考えるんです。諦めず粘り強く。香美市をますます元気にするためにも、ぜひそういうことをやっていきたいなと思っています。

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高知県内の契約農家が作ったにんにくをベースに、安心素材だけを使ったおいしい焼肉のタレ。最近イベントで、ねぎとタレをベースに焼きそばを作るそうです。香美市のふるさと納税のお礼品でも選べます。

 

鍵山さんは実に精力的にさまざまなことに取り組んでいる方でした。都会の視点で高知を見ると、実際住んでいると気づかないところに着目できる強みがあります。香美市と東京を行き来しながら積極的に地域活動に取り組んで行く姿勢。お話を伺っていて私自身も大変勉強になる取材でした。

 

【外部リンク】
(株)土佐龍馬の里 http://www.ryouma.co.jp/

【関連リンク】 移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html

提供:NPO法人FUSE 企画運営:NPO法人いなかみ

この記事を書いた人

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【プロフィール】

渡辺瑠海 わたなべるみ
ライター、編集者、エッセイスト

放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。

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