NPO法人FUSEとNPO法人いなかみの連携企画「個人事業」をテーマにした連載記事、第18回をお届けいたします。

大のsmartファンだったIT会社社長の渡邊さん。跡継ぎもなく廃業しようとしていた「セントラル自動車」を屋号ごと引き継いで開業し、今では全国の「smartの聖地」と言われる場所になっています。今日は合同会社セントラル自動車 代表社員の渡邊基文さんにお話をお伺いしました。

セントラル自動車7

香美市に決めた理由

まず人との出会いがあって、ここが跡継ぎもおらず廃業しようとしていると聞いて、ぜひ引き継ぎたいと頼み込んだところからここに決まりました。立地条件も問題無し。飛び込みのお客さん(普通の車)を相手にするのなら人口の多いところが絶対有利です。でも、ここがいいなと思ったのは、smartの場合、県内より県外客が圧倒的に多いからなんですよ。

あけぼの街道ができて道は広くて良くなったし、空港からもすぐだし、南国インター降りたらすぐですから。混み合う市内の国道も通らないですし。道も良くなって、県外のお客さんには高知観光もしてもらいたいので、工場の上の民家を泊まれるようにして自由に使ってもらっています。無料宿泊所みたいになってるんです。

県外から来たら、ここで泊まってもらって一緒に晩酌し、ひとしきり愛車の話をして寝て。楽しいですよ。だからもう、いろんなオーナーさんが来るんです。他県からお越しいただき、日数の必要な修理では車をおいてJRや飛行機で帰る方もいます。

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smartは渡邊さんが惚れ込んだ1990年代にスイスの時計会社とドイツの自動車会社が開発した二人乗りの車。ここでは他にも修理の難しい古い型の車や欧州車を手がけています。珍しい車に乗ったお客さんが続々。

この仕事のよろこび

ここでsmartに特化してやり始めて2年。かなりのスマートユーザーが来ています。さすがに沖縄からは来ないですけど(笑)九州は来ますよ。ヨーロッパ車はソケットにしても何にしても道具が全部ちょっと違うんです。あとsmart専用のコンピューターがあって、それも無いと修理はできないんです。

もちろんそれらは買って持っていますが、何といっても大事なのは技術者です。うちの技術者はすごいんですよ。彼は古くてメーカーから部品が出ないものでも、別の部品を工夫して付けてしまうんです。そういうところが最高です。

起業するに当たって、まず女房にするぞって言ったら、どうぞって言われたので大変じゃなかったです(笑)。それから、銀行。資本金ゼロなので、銀行に1千万借りようと思い、「貸して」って言ったら「どうぞ」っていわれて。マジかよと思いました(笑)

県の補助金も採択されました。何かに特化するっていうのはすごく強いですね。未来が見えると感じてもらえたんだと思います。まぁ補助金採択に関しては、タネ明かしをすると、結局、私が今までの会社経験の中で経産省だとか総務省だとか、補助金申請のための書き物をいっぱいしてきていたんです。だからそういう書類を作るのはお手のものなので採択されやすいのだと思います。

うちの会社の理念は「We support car lovers」車好きの人、車を愛してる人をサポートしましょうというのがモットーです。全国のsmart仲間が来てくれて、毎年1回カンファレンスをしていますが、そういう人たちに喜ばれるのが一番嬉しいし楽しいですよね。物に「愛」をつけるのは、実は車だけなんです。愛車って言うじゃないですか。愛ギターとは言わないし、愛ピアノとも言いません。生き物じゃなく愛が付くのは車だけなんですよね。

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「どうか車を諦めないで。近所で修理できないからというだけでsmartを諦める人がいっぱいいるんです。でも「愛車」はあきらめないでほしい。smartに限らず、好きな車は直して乗ってやって欲しい」と渡邊さん。

smartカンファレンス
カンファレンスの様子。ものすごい数のsmartが集まっています!

潜在ユーザーを持つ強み

私は「smartおやじのブログ」というブログを運営していまして、月間4万アクセスありsmartファンをサポートするブログなんです。なので、元々たくさんのsmart愛好家の潜在ユーザーを持っていたというのが強みになっていました。ブログを5年間ずっと書き続けてきましたので、多分今では日本一のsmartブログになっていると思います。

セントラル自動車にはこのブログのファンが来てくれるんです。ブログは突然初めてこれだけのアクセスがくるということはまず無いのでコツコツ書いています。

私のブログは技術ネタなので、今は1カ月ぐらい更新していませんが、それでもFC2(ブログサイト)で外車部門ベスト10に入っています。車全体でも100位ぐらい。これはsmartファンだけでなく、smartを新たに買った人も最初からじっくり読んでくれるからです。

バックナンバーもずっと読んでくれるような、そういう作りをしてるんです。ただ、先ほどもお伝えしたとおり、ポッとやってできるものではないですので、やっぱりsmartに特化してずっとやってきたからこその今なんです。

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珍しい欧州車のエンジンを興味津々で覗く渡邊さん。本業はシステム開発、ホームページ制作を手がけるシティネット(南国市)の社長さんです。「本業の傍らで起業したので、休みの日もこうやって出てくるし、実質休みは無いですよ(笑)。セントラル自動車の運営は支配人 兼 技術者の細木さんに任せています。IT会社はすぐ近くなので15分で来れます」

起業する人へのアドバイス

結局、私たちは設備産業なので、土地を買って建物を建てて設備を揃えてたら5千万とか6千万とか、そんな単位の話になるんです。そんなのできるはずがないですよね。だから、こうやって高齢になって跡継ぎがいなくて辞めていくところに交渉して引き継ぐのが良いと思っています。これは別にこの産業だけでなくて、設備が必要な産業はみんなそうですよ。

あとは、ある程度立地条件がよい場所を選ぶことと、風水というわけではありませんが、今までその土地で成功しているかどうかも大事だなと感じています。何度も店が変わって、あっという間に潰れる場所ってありますよね。そういう場所はダメです。まぁ、そういったいろんなことを含めて「運勢の良い場所」を探すことですね。

物件が見つかって借りられることになったら、できるだけ安価に貸していただくため、ここの場合は直接大家さんと交渉し、建物の修繕などは全部こちらでやる、不便なところも自分達で改修させてほしい、という条件で契約してもらいました。ここをもし閉めてしまったら、固定資産税だけを延々と払うことになるわけですので、この固定資産税を算出して最低ラインを確認し、そこから少し上乗せする形で賃貸料を決めてもらいました。

なので、お便所もボットン式でしたので(笑)自分達で直しました。もちろん実際に直す際は大家さんに許可を取りましたが、最初から好きにやらせてほしいという形で契約しておくことでやりやすくなります。

最後に、事業を引き継ぐ場合に気をつけることが1つありまして、例えば私たちは「セントラル自動車」という屋号も継ぎましたが、屋号を継ぐことは、法律上もしそこに負債があればそれも継いでしまうことになりますので、それは注意が必要です。

10年後のビジョン

私は今58なんです。だからITの方は10年後は誰かが継いでいるはずなので、ここをもっと手広くやっている感じでしょうか。

この業界は後継者がいなくてどんどん廃業しているんです。高知県自動車整備振興会がアンケートを取ったたら、半分くらいが後継者がいないそうです。ということは、それだけ空いてる、これから空く設備があるということですよ。なのでこのマーケットを広げていくことをやりたいですね。

そのためには人です。技術を持った人材をなんとかできれば、この近くで工場を閉めると聞けばそれを借り上げればいいんです。この業界の面白いところは、免許が「建物」につくんですよ。もちろん「整備士」という免許は人に付くんですが、トラックを整備できるとか、普通車を整備できるという免許は「建物」に付くんです。

認定工場であれば、それだけの設備があるという証明なので、自分のところで車検ができる環境も整います。そこに来ているお客さんもついてくるように配慮しながら借り上げていくようなことをやっていきたいですね。

 

10年後は「セントラル自動車の整備工場の妖精になるのが夢ですね。そこの隅で酒を飲みよる爺は誰や?みたいな。あの妖精につかまったら話が長いぞ、みたいな(笑)」 思わず笑いましたが、それは渡邊さんのこの工場への愛、smartへの愛なんだなぁと感じました。

 

■セントラル自動車
高知県香美市土佐山田町百石町1丁目10−23
(マップ)

【外部リンク】
セントラル自動車WEBサイト
http://www.central-cars.jp/

smartおやじのブログ
http://smartk.blog82.fc2.com/

【関連リンク】
移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html

提供:NPO法人FUSE
企画運営:NPO法人いなかみ

この記事を書いた人

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【プロフィール】

渡辺瑠海 わたなべるみ
ライター、編集者、エッセイスト

放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。

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