NPO法人FUSEとNPO法人いなかみの連携企画「個人事業」をテーマにした連載記事、第9回をお届けいたします。

十数年のハードな会社勤めの後に一念発起、石の上にも三年と思って始めた仕事に対する真摯な姿勢。今回はバリ式マッサージで起業した「panipani(パニパニ)」のオーナー西本由美子さんにお話を伺いました。

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「この仕事は本当に天職だと思っています」という西本さん。明るく、凛としたパワーに溢れていて。8割のお客さんがリピーターになるという理由がよくわかる気がします。「このマッサージに関わるすべてのプロセスが私にとっての喜びであり、やりがいがあります」

天職へのシフトチェンジ

流れのままに、いつのまにかこの仕事に引き寄せられたという感じです。やはり私自身、本来そういったことが好きだったんですね。自分がやりたかったのは、マッサージを通して人と出会い、人を癒していくことです。そう思うようになったきっかけは私の場合は「家族」の存在でした。

家族が病気になった時に少しでも楽にしてあげたくて、足のマッサージをしてあげたものでした。でも、その頃はまだ会社勤めで、勉強なんて全然していなかった。その後、病気だった父との別れがあり、そのタイミングでいろいろなことを考えました。

父の手の温もりですとか、マッサージしてあげたことですとか、そういったすべてのことが私をこの仕事に引き寄せてくれたのかもしれません。

私自身、厳しい会社員時代を過ごしてきたものですからマッサージが好きで、時間ができたら通っていました。だからこそ、女性が心も体も日々疲れ果てる感じがよくわかるんですよね。がんばっている女性を癒してあげたい。自分が今後どうなりたいかと考えたとき、自然にこの道に進んでいた気がするのです。

昔から「マザーズ・タッチ」という言葉があるぐらいで、昔の人は医学が発達するまでは、すべて手で触れて体の調子をみていましたが、それは当たり前のことだなぁと思うんですよ。触ってもらったら気持ちがいい、それでいいんです。触ってあげたい、ほぐしてあげたい、そういった思いがいつもベースにあるんです。

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圧をかけるバリ式マッサージ

本格的に学べる学校が高知県にはなかったので、大阪に行って勉強し、自分に合う手法を探し続けました。大阪で学びながら、自分でもあちこちに出かけていろいろなマッサージを受けて、これはすごくいいと思ったのが「バリ式」だったんです。

バリ式マッサージはインドネシアのバリ島、バリ王朝の時代に生まれたものです。古来から王族たちの「健康促進」「未病対策」、王女たちには「美容促進」の為に取り入れられていたものです。

このマッサージは、体にグッと「圧」をかけるんです。オイルマッサージではありますが、しっかり重圧をかけて、筋肉と筋肉の奥にあるリンパから、体の表層にあるリンパまでを、くまなく、ゆっくりと時間をかけてほぐしていきます。ゆっくりと圧をかけるところと、シャッシャッシャッと早く動かしたりするところのメリハリがあるのが最大の特徴です。

私はこの道でスタートした年齢が40歳と遅かったので、切実な問題として、このままでは体力的に10年持たないんじゃないかなと思うことがあるんです。このマッサージは力を大変使いますので、お一人終わったら全身汗だくになって、下着から服まで全部着替えるんです。それぐらい運動量があるんですよ。体力増強のために、ここ何年もジムで体を鍛えているぐらいなんです(笑)。

やっと余裕が生まれて

事業を始めた最初の1年から1年半は、お客さまをどうやって集めようか、どうしたら新しいお客さまに来ていただけるだろう、どうすれば満足していただけるだろうかとずっと考えていました。休みの日でも、家にいても24時間常に仕事のことが頭から離れませんでした。

それでも3年目になってようやく、心に余裕が出てきました。リフレッシュできずにいる自分にやっと気づいたという感じなんです。最近、庭で花を摘む時間を大切にしています。パニパニでは施術前にフットバスに入っていただくんですが、それに使う新鮮な花を、毎朝庭で摘むんです。

きれいな花を摘むためには、水やりして、植物を手入れしてあげる時間が必要。毎朝のその時間は私にとって、集中して心を落ち着かせるための大切な時間になっています。

朝、私の妹や近所の友だちなどと顔を合わせて「今から花を摘みに行く」と言うと「まるでハイジみたいだね」と笑われたりします(笑)。しかし、こういう時間を持つようになって、うまく思考の切り替えができるようになったという感じです。

女性の笑顔

私の一番のモットーは「女性の笑顔」なんです。40年高知で生きてきて思うのは、働く女性のポジションというものを見たとき、家庭でも職場でも社会でも、そこにいる女性が「笑顔」だと、そこには必ず良い空間が生まれているということです。

高知は働く女性の率が高いし、女性の起業や役職の割合がすごく多いんです。全国的にも女性が活躍しているトップクラスの県ですよね。そういうことも含めて、私自身が高知の女性をもっともっと応援したいんです。マッサージを通して、がんばっている女性を認めてあげたいんです。

マッサージが終わった方の笑顔は本当に素敵ですよ。皆さん笑顔です。女性が笑顔でいる場所には必ずいいことが舞い込んできます。それをモットーにしているんです。

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西本さんのマッサージを受けた後は皆さんすっかりくつろいで、お茶を飲みながらゆっくりおしゃべりして行く方も多いそうです。女性を癒すこと。女性を笑顔にすることをモットーとする西本さん「本当に、この仕事は天職だと思います」

事業を始める人へのアドバイス

私は何か事業を始めたいという人に「とりあえずやってみたら?」とは、絶対に言いません。その考えは甘いんです。とりあえずやってみる人の商売は、ほとんどが潰れていきます。

私の場合は、最初の3年間は事業に集中して、絶対にアルバイトはしないと決め、それなりの予算と時間と人生設計を3年分組んで、根性決めてやりました。

私のような同業者は多いんですが、ほとんどの方の生計はアルバイトで成り立っているんです。本業が逆に「バイト感覚」になっている方が多いんです。でもそれでは本業ではなく「バイト」です。私はこの仕事でご飯を食べていきたかったので、これ一本でやって来ました。逆にこれ一本でしか集中ができないタイプなんですよね。

それでも「とりあえずやってみる」なら、最初の一年間でガンガン勉強しまくることだと思います。これは私自身がとても役立ったことですが、地域の商工会とこまめに話をするとか、香美市なら、例えば役場との関係や、あるいは同業者の方のコミュニティを大切にすることでした。そういった拠点を軸に、しっかりと地域との交流や根回しをしておくことです。

開業しても仕事はすぐにはありませんので、事業を起こすためにはとにかく勉強すべきです。たくさん本を読んで、それらを参考にしながらとにかく動くことです。私自身もそうやってとにかく動いてきました。

そして、しっかり戦略を立てていきました。戦略家なんです(笑)3ヶ月に1回は売上と戦略を常に考えて経営しています。今年は開業して4年目。お客さんは地元香美市の方が多いですが、周辺の香南市、南国市、高知市からもリピーターとして来てくださる方がいます。ありがたいことに約8割がリピーターなんです。

それはやはり、今まで考えて立てた戦略の結果が出ているのだと思っています。もしこういったことをやらなかったら、早々に店を畳んでアルバイトして消えていく、という道に入っていたかもしれません。

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民族的なもの、伝統的なものがとても好きでバリの文化にも惹かれるところが多いという西本さん。珍しいバリの入浴剤や美容ケアグッズも充実しています。

10年後のビジョン

私はこの道に入ってスタートした年齢が少し遅かったので、先にもお話したとおり「体力的に10年持たないんじゃないのかな」と思うことがあります。このマッサージは本当に力を使いますので、ジムで鍛えているとはいっても多分限界は来ますよね。「50歳までは絶対大丈夫!」という自信はあるんですが、ただ、その後は徐々に別のことにシフトして行くべきだろうとも思っています。

その時は何をしようかと考えると、高知でこういった単なる癒しだけではなく、心にも体にも良い効果を及ぼすようなマッサージの技法を学ぶ場がないため、そういった教える側の立場を目指すのもいいなと思っています。

体のケアのことは、女性の感心は高いでしょうし、私自身、教えるのは得意だし好きですから(笑)おそらくそっちの方にシフトしていくのではないかなと感じています。たくさんの人にバリ式マッサージを学んでもらい、いろんな人に癒してくれる立場になってもらいたいですね。

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ハードだった会社員時代の教訓を、女性への癒しとケアを包括したバリ式マッサージという「天職」に活かし経営に取り組む西本さん。運動量の非常に高いマッサージの施術に、ジム通いを続けながら経営戦略も欠かさないというストイックな姿に、高知の女性の活躍が他県より一歩先に出る理由がわかったような気がします。同じ働く女性として共感し、学びの多い取材でした。

■バリニーズオイルマッサージ PaniPani(パニパニ)
AM 10:00~PM 21:00(ラストオーダー18:30)
TEL:090-5714-8455
高知県香美市土佐山田町宮前町2-18G棟

【外部リンク】
バリニーズオイルマッサージ PaniPani(パニパニ)
https://www.balinese-pani-pani.com/

【関連リンク】
移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html

提供:NPO法人FUSE
企画運営:NPO法人いなかみ

この記事を書いた人

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【プロフィール】

渡辺瑠海 わたなべるみ
ライター、編集者、エッセイスト

放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。

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