香美市に関わる魅力的な人を紹介する連載記事として「かみめぐり~香美を廻る体験博~」の各プログラムを主催する10人にインタビューを行いました。
第6回目は、押宇土工房の高村境次さんと奥様の仁美さんにお話を伺いました。
里山暮らしのアドバイザー
高村さんは、香北町にある築120年の古民家をDIYした住まいで、陶芸教室や古民家再生DIY、農作業を通して得た穀物からそば打ち体験や味噌作り、醤油作り、ピザ窯体験や燻製の作成など、暮らしを通じてあらゆることに挑戦されています。
自分の『好き』や『こんなものがあったら楽しいだろうな』が転じ、自身の経験から得たものを、里山暮らしのアドバイザーとして田舎で暮らす魅了を伝えられているのです。
かみめぐりにおいては『親子で作るそば』体験プログラムを用意されました。そばの実は自身の畑で育てたもので、その実を使ってそば粉挽きから始める体験です。
『食』それは今の自分、未来の自分の体をつくる大事なもの。
現在は、物価の安さを追い求めることで、本来の味が損なわれるものを添加物で補ったものが多く、それが当たり前になっていることで、人の『食』に対する関心が低いと高村さんは話します。
今回『親子で』のプログラムにこだわったのも、大人だけでなく、小さな子どもたちにも、『食』の大切さ、食べるまでの手間暇、自分で一から作ったものの美味しさを伝えたいと思ったのが理由だと話してくれました。
「昔はもっと『食』に対して手をかけていたはず。便利も良いけどそれにはやはり大きなリスクが伴っていると思います。我々がしていることは、特別なことをしているわけでなく、先人たちの知恵を借りて、昔の人がしていたような暮らしをしているだけです。作物は一度に収穫するから、一気には食べきれないですよね。だから一年かけてそれを大切に食べるように分散させるという方法が、味噌であったり醤油やジャム、乾燥させたものに変える『保存』という方法なんです。」
そこにも昔から伝えられてきた知恵がたくさんあるという。
桃のジャムにしても、果肉だけを煮詰めるのではなく、皮も一緒に煮ることによって香りの深みが全く異なってくるとか。
『食』に関してだけでなく、『住』に関してもそうだという。
この家の場所も向きも構造も、日当たりやその土地の水、風通しなどを全て計算され尽くされて建てられているものなんです。今はこんな家がいいとそれに合わせて作られるけど、昔はその土地の気候や自然の摂理に合わせて建てられていたのだと、住んでみて実感するんです。冬は温かいし夏は涼しいんです。
古き良き日本の習慣や先人の知恵にこそ、本当に大事な生きる鍵が詰め込まれていると感じます。知らないことが次から次へと発見できて、その手を使わないのは本当に勿体無いと感じるくらいです。」と高村さんは話してくれました。
我が子への想いが行動の根源
お二人は以前高知市内に在住で、大学の事務のお仕事をされていたそうです。
「息子は生活において手助けがいるのですが、その子が高校を卒業する頃に一人暮らをしたいと言い始めたんです。もともと退職したら陶芸をしながら田舎でゆっくり暮らすというのが自分の人生設計の中にあったので、それなら田舎でいつか二世帯という形をとって、この子が一人で生活をしていけるような環境を整えてあげたいと思ったのが、香北に移住してきたきっかけでした。」と高村さん。
子育て中は、全てが子ども中心の生活だったそう。
やっと落ち着いてきた時に、「子どもを大事にすることも必要だけど、親自身の幸せも必要なのではないか。親も子どもも両方が楽しい方が、子どもにとってもいいのではないか」ということに気づいたと高村さんは話します。
そのことをきっかけに、高村さんは自分の好きだった陶芸を再開したり、農作業をしてみたり、家をDIYで直してみたりと、目の前にあることを無駄にせず楽しむようにした結果、今の里山暮らしのアドバイザーになっていたということです。
好きなことだけやる、第二の人生はそれで良い
今まで頑張ってきた分、退職してからは嫌なことは無理にしなくていいと考えていると高村さん。
里山アドバイザーとしてやっている様々な分野のものも、試しにやってみたら面白かったというものばかりだそう。
「第二の人生は好きなことだけ、で生きていたいと思うのです。そして『まずは試しにやってみよう、ダメなら辞めたら良い。』と考えるようになったことで、案外やってみたことが新たな発見があって面白くて、それが新しい出会いにも繋がっていきました。」
「農作物を育てることで、今まで感じなかった小さな幸せをたくさん感じるようになり、自然に対して感謝する気持ちも生まれました。
以前の生活とは全く異なるもので、とても充実しているのです。
先ほども言いましたが、子どもだけでなく、親の人生も幸せであることも大切だと思います。」
「『楽しむ』という感覚は共有できるもの。一人での楽しみ方はあるけど、誰かと一緒に楽しめる方がずっと楽しいんですよね。だから、ピザ窯を真っ先に作って、燻製にも挑戦したりと、人がここに来てくれる仕組みを作ったんだと思います。もうずっと前から、第二の人生は好きなことだけして生きていたいと思い、そんな日を心待ちにしていたので、今がとても充実しています」と話してくれた高村さん夫妻はとても穏やかでした。
丁寧に生きる里山暮らしの良さを伝えたい
私が目指しているのは、田舎に住んでいるおばあちゃんたちの姿といっても過言ではありません。言い換えれば、『生活を丁寧に、整った暮らしをする』というものかもしれないです。スーパーに行くにも一苦労の山奥で一人暮らしをしている人も多い中、昔から受け継いできた先人の知恵と自然を味方に自分の力で暮らしている人がたくさんいます。
そんな先生方に教えてもらった技で作る食べ物は、やはりスーパーで売っているような商品の味とは全く異なるのだとか。
「何がそこまで違う味に作用しているのかはわからないけど、自然本来の味で、旨味の深さが全然違って、ごまかしのない、これぞ本物というものばかりです。先ほども言いましたが、私たちが今していることは、昔の人が当然のようにしてきた暮らしを習っているだけです。
今のように電気や電化製品がなかった時代に、いかに物を長く大事に使うか、どうすれば不便な環境の中で暮らしていけるかを考え抜かれた知恵なんですね。自分で一から手間をかけて作ったものは格別なんです。」と高村さん。
自分自身の幸せも考えてあげることで見えてきた世界。
息子さんと生活を楽しみながら、長い年月をかけて彼の自立を叶えてあげることが今の目標だそうです。
「家族で過ごすこの里山の暮らしを通して得た知識や経験、『暮らしを丁寧に生きる』ことの素晴らしさ、そして『親子で楽しむ』という楽しい時間の共有を、今回のようなイベントやワークショップを通して伝えて行けたらと思っています。」と高村さん。
半年くらいの期間を見据えて、そばを植えるところから収穫、そば粉をひいてそれで作る自分だけのそば体験や、農家民宿の実現など、今後まだまだやりたいことがたくさんあると話をしてくれました。
高村さんの暮らしの中にあるものは、今の我々若い世代は触れる機会が少ないことが多く詰まっているように思えます。
過去から学び現在を生きる、そんな言葉がぴったりな高村さん夫妻の生き方。
第二の人生はまだまだ歩み始めたばかり。今後の高村さんのご活動に目が離せません。
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押宇土工房
住所:香美市河北町岩改916
【関連記事】いなかみだよりNo.37「香美市の移住者インタビュー」
http://inakami.net/immigrant/inakamiletters37-24485.html
https://kamimeguri.com/programs/6170a9a3421aa90001814c38