香美市に拠点を置き地域活性化等にとりくむNPO法人FUSEと私たちNPO法人いなかみの連携企画として「個人事業」をテーマにした新連載をスタートさせることとなりました!
個人事業や小規模事業を営む移住者や地域住民を取材し、その想いや成功のポイントなどをお伝えするという内容です。取材は高知市でエッセイスト・ライターとして活躍している渡辺瑠美さんに依頼し、読み応えのある記事に仕上げていただいております!
記念すべき第1回目は、葉山、カリフォルニア、南インド、京都を経て高知に移住した服部雄一郎さんと麻子さんにお話をお伺いしました。香美市香北町の山里に移住し、毎週水曜日だけ開くカフェや、野菜・おやつ等のお届け便を行う「ロータスグラノーラ」を営んでいます。
小さな生業を組み合わせて暮らす
地方に移住したとき、これからここでどういう風に仕事をしていきたいか考えると、自分たち夫婦は「一つの専業」を持つのはやめて、いくつかの小さな生業を組み合わせて生きていけたら楽しそうかなと思ったんです。
関東にいるときから妻がよくイベントで料理をしていたこともあり、カフェのような空間はいつか持ちたいと思っていました。でも「カフェだけが自分たちの仕事になる」のではないライフスタイルの方が素敵だなぁと考えたんです。
なぜかというと、田舎に来るといろんなことができると思いましたから。家の改修も自分たちでやってみたかったし、翻訳の仕事もやってみたかった。やってみたいことがいろいろあって、週に一度の開店というのは常識的に考えると少なすぎるかなと思われるでしょうけれど、逆にいつも新鮮な気持ちが保てていいなと思うんです。
山里を登って行くと見えてくる水曜日カフェ。住居の半分を店空間にして、シンプルで居心地のいい手作り空間が広がります。
雄一郎さんの水曜日以外の過ごし方
私たちの店は今年の5月に開店しましたから、高知ではまだ新しいんです。今日はこんなにお客さんが多く来てくださいましたが、もちろんお客さんが少なくて閑散とすることもあります。
また、お菓子の製造許可を取っていますので、手作りのグラノーラや、季節の柑橘類、オーガニックの野菜などをセレクト発送したりもしています。関東で長く活動していましたので、どちらかというと関東、全国のお客さんが多いんです。
あとは翻訳の仕事です。今年の前半はかなりやっていました。本を書き終えてからは、これを持っていろいろなところに話に行ったり、連載をしたりという仕事をしています。こんなことがとても楽しいんです。
もしカフェを毎日やっていたら、忙しくてとてもできないでしょうね。うまく続けていけるかどうかわかりませんが、今はとてもいいバランスでできているなぁと思います(笑)。
麻子さんの水曜日以外の過ごし方
カフェで料理を手がける麻子さんはセラピストとして、県外でワークショップやセッションを開いていますが、まだここでは開いたことはないそうです。
まだまだこういった人口の少ない地域では、セラピー、癒し、魂の共鳴、そういったワークショップはなかなか受け入れられないんじゃないかと思ったりするんですが、でも「やってますよ」とアピールしないと、誰もアクセスできません。これからそういったことも少しずつ拡げていけたらいいなと思っているんです。
私がセラピーをしていて意識することは「その人の学びを奪わないように」ということと「相手のエネルギーを奪わないように」ということです。セラピーやワークショップを通じて、新しいエネルギーがそこで生まれるようなものじゃないと意味がないですから。
こういうセラピーの大切さは今になってようやく拡がりつつありますし、もっと価値や意味が認められていいのではないかなぁという思いがあります。こんな時代だからこそ話をして、人と人の間にたちのぼる温かな言葉を通じて、気づきを得たり、エネルギーを充電するということが、とても大切じゃないかと思ったりしています。
スパイスの話、旅の話、本の話。文化と癒しとおいしいランチの話が交差するひととき。やりたいことがたくさんあって、その全てを楽しもう!というのが服部さんご夫妻のフィロソフィです。
カリフォルニアや南インドなどを経て高知に
服部さん夫妻は神奈川県の葉山で「やまねごはん」という名の料理教室やカフェ活動をしていました。後に、カリフォルニアのバークレー、南インドのチェンナイ、京都の左京区に移住、そして高知に。そのきっかけは何だったのでしょうか?
高知に移住する前、実は滋賀県に移住を決めていたんですが、家が見つからなかったんです。探している何ヶ月かの間に、たまたまハワイから高知県に移住した友達を訪ねる機会がありました。そしたらこの景色、気質が素晴らしいんです。とにかく明るい。
うわぁいいなぁと思ったんですよ。もうその時点で「うん、滋賀県はもうめんどくさいからいいや、高知に決めた!」となりました(笑)。
ただ、私たちは二人とも神奈川県の出身なので、実家から遠くなるのが少し考えどころではありました。子ども達がおじいちゃんおばあちゃんに会ってもらえなくなると、やはり寂しいですからね…。でもそれより、決めたからには引っ越さなくちゃね!という感じです(笑)。
高知に最初に引っ越したのは友人の住んでいる土佐山でした。私たちも土佐山はとっても気に入って住んでいたんですが、やはり空き家でも貸してくれる家があまりなかったんです。
空き家がなくてちょっと落胆していると、友人が地区長さんなんかに紹介してくれて「あそこのお婆さんだったらきっと貸してくれる」と話を通してくれて、お婆さんの家を貸していただいたんです。
でも、やはり結局は長く住まわせていただくことはむずかしい状況となって、これは困ったなと思っていたときに、ちょうどこの家の前の住人と知り合い「半年後によそに引っ越すから、ここに住みませんか」と言ってくれて、大喜びで今年の1月31日に引っ越して来たんですよ。
ですから、今ようやくこの家の暮らしがやっと落ち着いてきた時期なんです。この店も5月から始めましたから、水曜カフェもまだまだ数えるほどで、香美市のこともまだほとんど知らない状態なんですよ。
水曜カフェ、ちょっとしたものにも素敵な個性が。
自分で考える仕事。自分の場が持てる幸せ
ライフスタイルを自由業に変えたのは、自分たちにとって大きな暮らしの変化でした。それまではもともと京都で在宅勤務をしていたんです。でも、やはり雇用先のための仕事と、自分たちで考える仕事というのは全くベクトルが違ってきますね。今の自分は毎日の過ごし方が今までと違うことをとても楽しめてます。ただ、もしかしたらこういう働き方は不安に感じる人もいるかもしれませんね。
うちは遠方のお客さんたちとも繋がりがあって、手作りのお菓子やグラノーラ、無農薬の野菜や柑橘類などを県外発送していると話しましたが、この仕事自体は土佐山の頃から引き継いでいます。ただ土佐山ではカフェはできませんでした。
貸し家の改修工事ができかったので営業許可がおりなかったんです。当時もお菓子の発送がないと生計が成り立たなかったので、これは困ったと思っていると、近所のパン屋さんの年配ご夫婦が場所を貸してくださって。その温かみには本当に支えられました。
ただもちろん、材料を運んで、焼いて、また運んで発送して…と大変な部分もありました。だから今は自分たちの場が持てるというだけで天国のようです。そういう意味ではやっと軌道に乗り始めた嬉しさでいっぱいです。
誰も損をしない循環型の暮らし
「高知の農産物や果物の発送は県外のお客さんにとても反応がいい」という雄一郎さん。土佐市で農薬をできる限り使わない柑橘栽培にこだわる農家の井上清澄さんとの付き合いの中から、規格外で廃棄されるみかんを引き取って販売してみたそうです。
規格外のみかんは確かに見かけは悪いんですが、味はやはりすごく美味しいんです。そのまま食べてもいいし、ジャムやお菓子にしてもいいですから、捨てるのはもったいない!と思いました。井上さんは毎年、こういう販売できない規格外の柑橘を2トンも廃棄してるというんですよ。
農家さんにとっては常識かもしれないですが、自分たちはびっくりしてしましました。それで妻が「これ、うちで販売させてもらえませんか」と言ったら「そんなの売れんと思うけど、できるものだったらどうぞ」と、いきなり200キロの規格外みかんをトラックに乗せて持ち帰ってきたんです(笑)。
それを、お菓子などを買ってくれているお客さんに少しずつおまけでつけたりしているうちに、みなさんも柑橘の美味しさにびっくりされて、どんどん注文してくれるようになりました。お客さんのSNSで一気に拡げていただいて、3週間で1.5トン近くも売れたんですよ。
それは日本の社会から見たら本当に小さなことですけど、こうやって1・5トンという規模で廃棄されるはずだったものが、みんなに喜ばれて、誰も損した人がいないということは素晴らしいことだと思いました。こういうことが自分たちにもできたということが、その後の暮らしにとっても確かな手触りになりました。
自身のライフワークとして、エコロジーを中心とするたのしい本をマイペースに訳していこうという思いから、雄一郎さんが自ら企画を持ち込み翻訳にあたった『ゼロウェイスト・ホーム』。循環型の暮らしを楽しむライフスタイルは服部さん夫妻の暮らしに根付いています。
投資を最小限に抑えた新しいチャレンジ
ここは状態のいい空き家ではありましたけど、まだまだ改修途中なんですよ。大工仕事の得意な友人の助けも借りましたが、一発で済ませることはできませんでしたので、毎日の暮らしの中で時間を見つけては、得意でもないのにDIYで何とかお金を節約しながらやってみたり(笑)。楽しみつつですけれど、いっぱいいっぱいになってみたりしながらやっていこうとしています。
家の向こうに離れの家がありますが、そこはもともと物置だった小屋をお借りして改修したものです。今寝室としても使ってるんですけど、いずれはあそこで本当に小規模な月一泊、2、3組のゲストハウス、エアビーアンドビーみたいなことをそのうち始めてみたいなと思っているところです。まさに、こういうことにいろいろと取り組めるのが移住ならではの楽しみですよね。
私たちはどんな仕事をするにしても自由ですが、その代わり投資を最小限にしようと決めています。だって、うまくいくかどうかなんて最初からはわからないですから。うまく行かせるというのを前提にすると、そのうち予定通りにいかなくなって苦しくなったり、辛くなったりするでしょう。
うまくいくものは不思議とすっと拓けていく感じだし、逆にうまくいかないものを無理やりやろうとするのは効率が悪いからというのもあると思う。最初に大々的な工事とか、お金のかかる投資をしないで始められることをやって行きたいなというのをすごく思っていて、今まで自分たちが投資なしでやってきたことは、自分たちにとってすごく理に叶っていたんですね。
だから、もしこれから移住して何か始めたいという若い人がいたら、この部分を大事にしたらいいんじゃないかと思ったりします。
10年後、服部さん夫妻はどうしていると思いますか?
10年後、僕はちょうど50歳になってますね。予想はつきませんけれど、実は10年後の願いはこの前考えたばかりです(笑)。ちょうど土佐山の夫婦とうちの夫婦の4人で「移住のナカミ」というサイトをやっていて、その中で「10年後」というテーマがあったんです。
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【外部リンク】移住のナカミ
https://note.mu/ijuunonakami
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最初に訪れた高知の町、空間のとにかくすごく開放的な部分、ある意味日本離れしているところ(笑)がすごく気に入って移住を決めたんです。高知は自分たちにとって何のゆかりもない土地だったんですけども、こうして何かのご縁があって住むことができて、少しずつ生活が軌道に乗ってきて。
だからこそ10年後もここで定着をして、生活を深めて楽しんでいる自分でいられたら嬉しいなぁと思いますね。実は仕事に関しては全くこだわりがないので、その流れの中で自分たちがいちばんできることを流れに逆らわずやっていけたら嬉しいかなと思うんです。
カフェなんかももちろん楽しんでやってるんじゃないかなと思いますけど、その辺もこだわってなくて、これからどんな風に変わっていくのかを自分でも楽しみにしています。
自分たちで生業を作り出すシンプルなライフスタイルの心地よさ。不自由なことも自分たちの創意と工夫で楽しみながら作り出していく、移住ならではの醍醐味があるという言葉にハッとさせられました。
「10年後、私は間違いなく、畑仕事が上手になってますよ」という麻子さんの笑顔をみて、楽しみながら毎日を営む輝きを感じました。 太陽のように明るい服部さん夫婦。これから地域全体にその新しいライフスタイルを広げ、発信して行くのではないでしょうか。
【関連リンク】
移住者の小さな起業を応援するプロジェクト「いなか・ラボ」スタート
http://inakami.net/works/inakalabo-11381.html
提供:NPO法人FUSE
企画運営:NPO法人いなかみ
この記事を書いた人
【プロフィール】 渡辺瑠海 わたなべるみ 放送業界を経て25歳で出版の世界へ。東京でライターとして雑誌企画、書籍制作に携わった後2003年に高知にUターン。書籍、冊子を手がける。著書『田舎暮らしはつらかった』『龍馬語がゆく〜日常をハイに生きる土佐弁』『イヌキー・私とトートバッグ犬の10年』高知新聞連載『はちきん修行記訪ねて候』など。 |
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