現在、香美市の地域づくり支援員として、美良布地区集落活動センターの取り組みをメーンに活動している村中大樹さん(29)。香美市にやって来たのは2018年11月。香美市に訪れるまでの２年間は、ブラジルで仕事をしていたという。移住者の視点と海外生活の経験をもつ村中さんに地域づくり支援員としての取り組みや課題を伺った。
▪️村中さんが地域づくり支援員になるまで
鳥取県で生まれ育ち、横浜の大学に進んだ村中さん。大学１年生の時になんとなく手に取ったボスニア紛争の映像作品に影響を受け、たった一人でセルビアやクロアチアを旅したという。それを機に、海外旅行に夢中になっていた。
プライベートで海外を旅する一方で、学生のボランティア団体に所属し、日系ブラジル人やペルー人に勉強を教えていたという。活動していく中で、ふと「なぜ彼らはこの街にいるのだろう？」と疑問を持ったことをきっかけに、大学院ではブラジルの移民について研究を始めた。
大学院を卒業後、ブラジル南東部に位置するサンパウロを拠点に２年間仕事をして、日本に帰るタイミングで高知県と縁があり、香美市の地域づくり支援員となることが決まった。
▪️美良布地区集落活動センター
55ヵ所ある集落活動センターのうち、村中さんが担当する美良布地区は「香美市立やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム&詩とメルヘン絵本館」や「健康センターセレネ」、「ザ・シックスダイアリーかほく ホテルアンドリゾート」などの観光施設もあることから、香北町のなかでも特に人の交流が多い地域だ。そのため、地域に出てアンケートをとるなど、住民のニーズを聞き出すことに時間をかけて基盤作りを行ってきたそうだ。ワークショップを行いながら、美良布地区の人たちで話し合う場も設けてきた。
「人の交流や観光施設が多いからこそ、人と人をつなげる役目をしなきゃいけないと感じています」と村中さん。移住者の視点をもって、支援員として現場で活動している村中さんに香美市の印象や課題を聞いてみた。
ーー
上総「村中さんが感じる香美市の特徴や良さはどんなところにありますか？」
村中「香美市ってすごく移住者に人気のある地区なんです。その中でも特に移住者が増えているのが香北町です。美良布は程よく街で便利ですし、谷相や猪野々も標高が高く見晴らしがよくて魅力的です。現場に居て感じる魅力を伝えながら、移住者と地域の人たちをつなぐことを集落活動センターもできればなと思っています。」
上総「課題はどんなところにあるのでしょう？」
村中「個人的に感じている課題は”農業の担い手が確実に減っている”ことです。これといった解決策があるわけではないけれど、移住者が香美市に注目してくれているというのは大きな特徴なので、やはり移住者も巻き込んだ活動ができればなと思います」
上総「地域づくり支援員のお仕事の中で楽しさを感じるときはどんな時ですか？」
村中「地域の方と、和気藹々としている空間にいるときが一番楽しいですね。移住者だというと、ウェルカム精神で受け入れてくれました。その人たちに助けられることが本当に多くて、良い人ばかりです。」
上総「地域の方と接する中で、心がけていることはありますか？」
村中「素直でいることですね。支援員って市と地域の間にいるような、良い意味で中途半端な存在なので、地域づくり支援員としての立場上の意見を踏まえて自分の考えや思いを素直に伝えています。他愛のない日常の会話が大事なんだなと。特別心がけてきたわけではないですが、振り返るとそうやってコミュニケーションを増やしてきたことが大切だったと感じますね。」
また、村中さんは現場で感じる取り組みの難しさも語ってくれた。
村中「もちろん、批判的な意見がゼロではないです。私にも”支援員”という立場があるように、地域の皆さんにもそれぞれの立場や考えがあります。常に共通の課題が明確にあるわけでもないし、集落活動センターの認知度もまだまだ低いです。」
上総「簡単ではないですよね。」
村中「はい。でもここで、ブラジルで過ごした経験値を生かしていければと思うんです。海外だと日本じゃありえないこともたくさんあるじゃないですか。だから、仕事に限らずとんでもないことが起こっても『ああ、そういうこともあるよね』って冷静に判断できることが増えた気がします。」
上総「仕事をする中で、相手の意見を受け入れることが難しい時もありますよね。」
村中「はい。けれど、基本的に相手の言っていることを一度受け入れる。そして相手がどういう状況なのか考えてみる。そうして、少しずつでも人と人をつなぐことができれば良いなと思っています」
支援員になって１年足らずの時間で、地元の方と信頼関係を築けたことが、何よりの成果だという村中さん。海外で過ごしてきた経験値を生かした美良布地区の活性化に期待したい。
インタビュー・記事・写真 上総 毬椰